「30年物の和式トイレ」も改修できず…350万円を市民から集めた地方大学の雄に「どれだけお金ないのよ」の声
■「女子枠」を設置する以前の問題 大半の国立大学は、教育・研究の発展には多様な人材が交わることが必要だと考えている。政府も、多様かつ優秀な人材を確保したい産業界などの要請を受けて、工学部を中心に女子学生を増やそうと躍起になっている。このため、ここ数年、入試に女性しか受験できない「女子枠」を設けたり、女子中高生だけを対象にした説明会を開いたりと、女子学生を増やすために、あの手この手の対策に取り組む国立大学が増えてきた。 教育や研究の内容、入試方式などが重要であるのは言うまでもない。だが、学生は学部だけでも4年間、大学院の博士課程まで進むと、10年近く大学に通うことになる。長い時間を過ごすキャンパスの環境もまた、女性が気持ちよく学び、研究を続けるために重要な要素の一つだ。 かつてはバンカラのイメージが強かった大学も、キャンパスをリニューアルした際には、きれいなトイレをアピールポイントの一つにしていた。女性を積極的に受け入れる姿勢を示す格好のアピール材料となるからだ。例えば明治大学は、今や女子高校生の人気が非常に高い大学として知られるまでになっている。 ■交付金は減額、授業料は20年据え置き 一方で多くの国立大学では、トイレに限らず老朽化した建物や設備が目立つ。やはり、運営費交付金が減額された影響が大きい。経済的な事情で進学を断念する若者を増やしたくないと、大半の国立大学が05年度から授業料を据え置いていることも、厳しい財務状況の一因となっている。 国の科学研究費補助金(科研費)などの競争的資金や企業との共同研究、寄付といった外部資金の獲得を進めている大学も、状況はあまり変わらない。「この研究に」「あの設備に」などと使途が限定されていることが多く、教育関連の施設・設備の改修に自由に使うことができないという。
■節電のため図書館開館を短縮、蔵書も廃棄 悪影響は、学生の学びに欠かせない図書館にも及んでいる。22年以降、電気代の高騰などを理由に、東京大学や大阪大学、九州大学、北海道大学などで、開館時間を短縮する動きがみられた。開館時間を1~3時間程度短縮したり、それまでは開けていた休日や祝日を休館にしたりしたのだ。エアコンに使う電気代を節約するために、図書館を含めたキャンパスの夏の一斉休業期間を延ばした大学もある。 泣く泣く図書館費を減らす大学も増えている。海外大手出版社の寡占(かせん)化による学術誌や電子ジャーナルの高騰も拍車をかけ、購入する書籍を大幅に絞り込む大学も多い。 東海地方にある大学の教授は、国立大学の図書館の予算不足を実感している。書庫のスペースを広げることができないなか、新しい書籍を入れるために、古い蔵書を廃棄することが増えているという。 「廃棄される本の中には、もう市場では手に入らない貴重なものもある」。教授はそう嘆き、ある大学の図書館が廃棄しようとしていた蔵書を100冊近く引き取ったこともある、と打ち明ける。 予算が足りないことが、教育の高度化を妨げ、さらには劣化につながる。朝日新聞のアンケートには、そんな懸念を訴える声が数多く寄せられた。 ある大学の文学部に所属する准教授は、教育のために使える予算が減らされた結果、現代の学生のために必要だと考える授業改善に取り組めずにいる。この准教授は、データサイエンスを使った研究手法を授業に生かしたいと考え、教材を作るなど準備を始めたという。だが、文学部に回ってくる予算が少なく、必要な機材類の手配が難しかった。「学生に新しい手法を教えたいが、今のままではできない。古いタイプの教育から転換できずにいる」と嘆いていた。 金沢大学の社会科学系の教授は、「必要な経費が回ってこない」と悔しがる。予算不足で非常勤講師の待遇悪化や技術支援スタッフの削減などが続き、「実習などの教育に悪影響が出ている」とも訴える。