【感染症の文明史】温暖化で北上するヒトスジシマカ : 熱帯病の恐怖が東京ばかりか、東北にまで差し迫る
人類への警鐘
米カリフォルニア大学のサイモン・アンソニーによると、これまで記載された病原性のウイルスは約5400種。だが、これはごく一部にすぎない。既知の約6万2000種の脊椎動物には、それぞれ固有のウイルスが寄生している。それから計算すると、ウイルスは少なくても約350万種はいてもおかしくないと彼はいう。動物由来感染症の候補には事欠かない。 米スタンフォード大学ウイルス学者ネイサン・ウルフはこう語る。「地球上のどんな辺地の村からでも、交通機関を乗り継げば48 時間以内にニューヨークに到達できる。50年後の人びとが現在を振り返った時、予防がいかに重要かを私たちが理解していなかったというだろう。このまま開発至上主義・人間中心主義で、環境や生態系の破壊をつづけていけば、その結果は必ず人類に跳ね返ってくる」 インフルエンザ研究の権威でWHO研究所長も勤めたロバート・ウェブスターは、「今後、スペイン風邪なみのパンデミックは再び起きるだろうか」という質問に対して「起きるかどうかではなく、いつ襲ってくるかの問題だ」と答えている。 (文中敬称略)
【Profile】
石 弘之 環境史・感染症史研究者。朝日新聞社・編集委員を経て、国連環境計画上級顧問、東京大学・北海道大学大学院教授、北京大学大学院招聘教授、ザンビア特命全権大使などを歴任。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞などを受賞。主な著書に『名作の中の地球環境史』(岩波書店、2011年)、『環境再興史』(KADOKAWA、2019年)、『噴火と寒冷化の災害史』(同、2022年)など。『感染症の世界史』(同、2018年)はベストセラーになった。