「失敗から本当の血肉ができていく」内野聖陽56歳、チームワークの大切さと“若手俳優”に対する想い
完璧に見えるが焦ったビリヤードシーン
――詐欺の仕掛けにまつわるシーンでは、内野さんはビリヤードのシーンが大変だったかと思いますが、とてもステキでした。 内野:勉強したもん。何度も何度もビリヤード場に行って。劇中の熊沢と同じです。「下手な役なんだから、これくらいでもういいでしょう!(笑)」と思ったんだけど、スーパーショットも出てくるので、上手くならないといけない。あそこの撮影は本当に大変で、テストまでは何度もショットが決まって、「俺、すごいじゃん!」と盛り上がっていたんですけど、本番になった途端に入らなくなっちゃったんです(苦笑)。撮影時間も深夜に渡り、プロデューサーさんたちも撮影隊を撤収させないとだからNGを重ねられない。 ――内野さんでもそんなことがあるんですね。 内野:周りのいろんな圧を受けながら、それでも入らなくて。さっきまで入ってたじゃん!みたいな(笑)。結局、監督の一声。「ここカット割りで処理します」ってなっちゃって。「ちきしょう、俺の努力は!?」とシュンとなりましたけど…結局、成功したテイクがあったらしくて、それが使われていたようでホッとしましたが(笑)。
これは、演技を通じて人間回復していく物語
――まさにそのビリヤードのシーンから、物語はクライマックスへと進んでいきました。最後に、本作で大切にしたことを教えてください。 内野:僕のキャラクターに関する限りでお話すると、“怒り”という感情を忘れてしまった人物が、詐欺という演技をする中で、人間回復していく様を軸にしていきました。「生きるって面白いね」「演技するって楽しいね」と、次第に感情に、怒りに目覚めていく。公務員が詐欺で復讐しようとするなんて、はっきりいって荒唐無稽なわけです。そこのフィクションをどう乗り越え、ふり幅を付けていくかを常に考えていました。 ――面白かったです。 内野:そのひと言は上田くんが喜びます! ゴールが見えなくて、心が折れそうなときもあったと思うんだけど、完走できたのは彼の熱意があったからだし、僕も「とことん付き合うよ!」という気持ちでした。現場に入ったときには、監督の一番の理解者は自分なんじゃないかというくらいのところまで来ていたから、観客の方が楽しんでくれたら、僕もそんな嬉しいことはないです。 <取材・文・撮影/望月ふみ> 【望月ふみ】 ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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