【写真で見る】敏腕TVマンが見た!「絶滅危惧種と暮すチベット民族」驚きのリアルな日常(前編) インドと中国の境界線「最果ての村」を目指した結果
2人は大声をあげ、手を振りながら、発車したバスを追いかけた。こんな辺ぴな場所で置き去りにされたら大変だ。 10mくらい進んだところで運転手が気づき、止まってくれた。酸素が薄い高地で猛ダッシュしたので、肺が悲鳴をあげている。 「はぁ、はぁ、インドと違って、定刻通りなんですね」 「はぁ、はぁ、多分、乗客の誰かが気づいてくれたんだよ」 やはり、このエリアでは時間を守る習慣が根付いているようだ。 それとも、乗客の人数など気にしないほど、運転手が大ざっぱな性格なのかもしれないが。
とにかく、こんな場所に置き去りにされたら命に関わる。ここはヒマラヤ山脈の最奥地なのだから。 バスはさらに進み、道が二股に分かれる場所で一度降り、アタルゴ橋で10人乗りのバンに乗り換えた。 ピンバレー(ピン渓谷)に入ると、眺める景色が変わってきた。山々が高くなり、より険しく、雄大になっていく。頂上部分に、雪が残った標高6000mを超える山々がいくつも見える。 太陽が落ちてくると、谷底に川が流れる渓谷全体に青みがかり、美しい景色が、なぜか「死」を連想させる不気味な景色に変わった。
山肌の巨大な崖が黒みを帯び、圧迫感を与える。 何とも言えないざわつく感情に陥るが、車内のたくましい女性たちを見ると、特に危険を感じている様子もなく余裕の表情をしている。 「じゃあ、大丈夫か」 そうやって、怖気付いた気持ちをのみ込んだ。 ■やっとの思いでたどり着いた「ゲストハウス」 ムド村に到着した頃には、夜の6時を超えていた。空は薄暗く、夜の様相を呈している。2人でバックパックを背負い、今晩泊まる宿を探し、辺りをうろついた。
気温が下がりダウンジャケットを着ていても寒い。すると遠くに「TARA CAFE」という看板が見えた。なんとなく、ゲストハウスの匂いがする。 「ここ、宿ですか?」 「あーそうだよ。2人?」 真っ黒に日焼けした30代くらいのたくましい、平たい顔の男性がそう答えた。運よく、1軒目で宿を引き当てたようだ。 「今、奥にあるヤギ小屋の上の部屋しか空いてないけどいいかい?」 「はい。大丈夫です」 部屋はカザの宿よりも質素な山小屋であったが、必要最低限のものはすべてそろっていた。2つのベッドと大きなキャンドル、硬いベッドには分厚い敷布団が敷かれ、チベット柄の掛け布団が数枚重ねられている。