「介護告白したら戦力外」の恐怖心 支援の空気つくれぬ企業
SOSがない介護は後回し
介護が始まる前は全く意識が向かず、いざ始まっても会社は当てにできないと思い込み、「介護がバレたらペナルティー」とまで考えている。そんな社員が多い会社では「介護のことは言えない、言っても何も変わらない」と、誰もが口をつぐむ。仕事と介護の両立が難しくて退職するとしても、届け出る理由は「一身上の都合」だ。 企業が介護支援策を講じようとする際、これは大きな障害になる。「社内調査を行っても介護支援を強化してほしいという声は上がらないし、制度をつくっても利用者が増えない。経営層に介護支援策をと訴えても『エビデンス(証拠)がないじゃないか』と言われてしまう」。ある大手化学メーカーの人事担当者はあきらめ顔で語る。 人事部として、放置しておくと介護離職のリスクが高まるとの危機感を抱いている。だが「新型コロナウイルス禍後の社内の変化にリソースを割かねばならず、育児支援にもさらに対応を求められる。社員からSOSが出てこない介護は後回しにせざるを得ない」。 会社員の悪夢を描いた『介護退職』 楡周平が記した小説『介護退職』(2011年、祥伝社)は、役員昇格を懸けて米国工場建設に挑む男性が主人公。秋田県に暮らす母親が雪下ろしの事故で要介護になり、仕事に全力を注げなくなってライバルに役職を奪われ、閑職に回されて退職に至る。意外にもハッピーエンドだが、「介護はマイナス評価」という会社員の恐怖感がよく伝わってくる。
山中 浩之、馬塲 貴子