落語家・桂雀々さん逝去 罹患していた「糖尿病」はどのような合併症を引き起こすのか
落語家の桂雀々さんが、11月20日亡くなったことが報道されました。64歳でした。雀々さんは10月下旬に一度倒れ、緊急搬送・入院しており、その後は回復しリハビリをしていました。しかし、今月15日に所属事務所が「持病の糖尿病により、現在入院加療中です」と報告し、年内出演予定の落語会を全て休演していました。 【イラスト解説】糖尿病が進行した先に待ち受ける恐ろしい合併症 雀々さんが患っていた「糖尿病」は、進行すると様々な合併症を引き起こす恐ろしい疾患です。本記事では糖尿病の合併症や主な症状などについて、医師の久高先生に伺いました。 ※この記事はMedical DOCにて【糖尿病の合併症はなぜ起こる?合併症の種類・症状について解説】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
糖尿病の合併症はなぜ起こる?
糖尿病の合併症が起こる理由には、糖尿病によって血糖値が高くなることが関係しています。糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、血糖値が常に高い状態になる病気です。 本来、ブドウ糖はインスリンの働きによって血液中から体の各細胞に入り、エネルギー源として活用されます。しかし、インスリンが何らかの原因により十分に機能しなくなると、ブドウ糖が吸収されずに血液中に増えてしまうのです。この状態を糖尿病といいます。血液中に多いままになったブドウ糖は、ヘモグロビンと結合してヘモグロビンの働きを阻害したり、血管を傷つけ硬化させたりしてしまいます。この状態が続くと、血管を通して運ばれるはずの酸素や栄養が十分に行き渡りません。これにより体中のさまざまな臓器や神経に影響が出て、合併症が引き起こされるのです。 特に心臓や脳の血管が影響を受けやすい傾向があり、脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる病気の原因にもなります。
糖尿病の合併症の種類
糖尿病は体中のさまざまな臓器や神経に関わる合併症を引き起こします。どのような合併症があるのか、具体的に解説します。 [神経障害] 神経障害は、糖尿病の三大合併症に数えられている合併症です。血糖値が高いと神経に必要な栄養を運べなくなり、運動神経・感覚神経・自律神経といった神経の働きが鈍くなります。これにより心身にさまざまな不調を引き起こすのが神経障害です。神経障害が起こると以下のような症状がみられるようになります。 ・物を掴んだときの感覚が鈍くなる ・階段の上り下りなどのちょっとした動作で息切れしやすくなる ・胃腸の調子が悪い状態が続く ・汗をかきにくくなる 感覚神経が鈍くなると、物を触った感覚が十分に脳に伝わりません。血が出るような怪我をしていてもすぐに気づけなくなるケースもあるでしょう。運動神経に障害が出ると、足や腕の筋力が低下することもあります。臓器や細胞の働きに深く関係している自律神経の働きに障害が出ると、消化器官の不調につながります。また、自律神経は血圧の調整にも関係している神経です。そのため、自律神経に障害が出ると血圧調整がうまくできなくなり、起立性低血圧や徐脈のほか、無痛性心筋梗塞を引き起こす可能性もあります。 [糖尿病網膜症] 糖尿病網膜症は、神経障害と同じく糖尿病の三大合併症に数えられる合併症の一つです。糖尿病網膜症になると網膜や視神経の働きが阻害され、視力の低下や失明につながる危険性があります。網膜は、視覚情報を脳に伝える重要な役割を担っている組織です。視覚情報を脳へ正常に送るためには、網膜に広がっている毛細血管から視神経へ酸素や栄養を行き届かせる必要があります。 しかし、糖尿病になると血液中の糖の濃度が高い状態が続き、毛細血管に酸素や栄養が届きにくくなります。これにより、視神経が十分に働かなくなってしまうのです。また、血糖値が高い状態が続くと網膜内の血管が傷つけられ、進行すると網膜出血や網膜剥離が起こります。糖尿病網膜症が重症化すると最悪の場合失明しかねないため、早期発見と血糖コントロールなどの早期治療が必要です。 [糖尿病腎症] 糖尿病腎症も三大合併症の一つです。血糖値が高い状態が続くことが原因で腎臓の機能が慢性的に低下する病気であり、発症すると体にさまざまな不調があらわれます。 腎臓は血圧の調整や老廃物の排泄、血液生産に必要なホルモンの分泌など、さまざまな役割を担っている臓器です。腎機能が低下すると、不要な水分や老廃物の排泄機能が低下してむくみやすくなったり、血圧の調整がうまくできず貧血を起こしたりします。 糖尿病腎症は初期症状がなく、進行してから体の不調があらわれる点もこの病気の特徴です。病気が進行し腎機能が著しく低下した場合には、透析療法が必要になります。腎臓の機能は一度低下すると回復は困難とされており、透析療法によって人工的に腎臓の機能を補います。 [動脈硬化] 動脈硬化は動脈が硬くなる状態を指します。通常、血管は柔らかくしなやかな形状をしているものです。しかし、血液中にブドウ糖が多くなると血管を傷つけ、弾力性が失われてしまいます。血管の弾力性が失われると、血液の流れが悪くなったり血管が詰まりやすくなってしまいます。これにより引き起こされる恐れがあるのが、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの病気です。 特に心臓や脳などの重要な臓器の動脈が硬化することを細動脈硬化と呼び、細動脈硬化が起きると命に関わる病気を発症する可能性が高くなります。動脈硬化は、糖尿病以外にも加齢・高血圧・喫煙・肥満・運動不足などさまざまな要因が重なることで発症率が高くなります。 「糖尿病足病変] 糖尿病足病変は、水虫やタコ、足の変形などさまざまな症状が足にあらわれる病気です。糖尿病によって足の血管が細くなり、足の神経に障害が出ることによってさまざまなトラブルが発生します。たとえば、糖尿病による神経障害で足の感覚神経が鈍くなったことによって傷や感染症に気づきにくくなり、傷口の化膿や水虫の悪化が進んでしまうなどの症状が代表的です。また、足に広がる末梢動脈が細くなり血液の流れが悪くなると、足潰瘍や足の組織が死んでしまう足壊疽が起こる危険性もあります。 糖尿病足病変を早期に発見するためには、定期的な足の観察が欠かせません。定期的に観察することで足の異変に気づけるだけでなく、もし気づかないうちに傷ができていても放置することなく適切な治療ができます。 足の感覚に違和感がないか、足の状態が変化していないかなどを定期的に観察し、異変があれば医師に相談しましょう。