「11日間眠らない」に挑んだ高校生の身に起きたコトとは 極限まで眠らないとどんな影響が出るのか【海外】
“不眠”のなかでも最も恐ろしい「致死性家族性不眠症」
最も極端で恐ろしい不眠は、致死性家族性不眠症と呼ばれるごくまれな病気で、つい最近、1986年に初めて医学的に説明された。遺伝病で(だから家族性と呼ばれる)、世界で40家族足らずしか症例がないことがわかっている。 患者は完全に眠る能力を失い、疲労と多臓器不全でゆっくりと死んでいく。この病気は、例外なく死をもたらす。破壊因子は、プリオン(タンパク性感染粒子)と呼ばれる、一種の壊れたタンパク質だ。プリオンはひどく厄介な変異タンパク質で、クロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病(牛海綿状脳症)、ほかにもいくつかの恐ろしい神経疾患の原因となる。 致死性家族性不眠症では、プリオンが視床を冒す。視床は、脳の深部にあるクルミ大の部位で、血圧、心拍、ホルモン分泌などの自律反応を制御している。プリオンによる破壊が具体的にどのくらい睡眠を妨げるのかは不明だが、悲惨な経過をたどるのは確かだ。
「あくび」の最も不可解な点
最後に、謎めいてはいるが、人類共通の疲労の先触れであるあくびについて少し触れておこう。なぜわたしたちがあくびをするのか、誰にもわからない。赤ちゃんは子宮の中であくびをする(しゃっくりもする)。昏睡(こんすい)状態の人もあくびをする。人生にはつきものだが、具体的になんの役に立っているのかは不明だ。 一説では、なんらかの形で余分な二酸化炭素の排出に関係しているらしいが、どんな方法なのかを説明できる人はいない。別の説では、頭に涼しい空気が送り込まれるので少し眠気を追い払えるというが、あくびをしたあとすっきりしてやる気が出た人には会ったことがない。 おそらく、あくびのいちばん不可解な点は、尋常でないほど他者にうつりやすいことだろう。誰かがあくびをしているのを見るとたいていつられてしまうだけでなく、単にあくびについて聞いたり考えたりしただけで、あくびが出てくる。あなたは今、ほぼ間違いなくあくびがしたいだろう。もちろん、遠慮することはない。 *** 「11日間眠らない」の挑戦には驚かされるが、「世界一の息止め記録」に挑んだ人物がいるという。つづく第2回【「24分間」の息止め世界記録 365日休まず酸素を供給する肺の驚異的なパフォーマンス】では、驚異の挑戦と毎日お世話になってるわりには意外と知らない、スーパー呼吸装置「肺」について紹介している。 ※『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』より一部抜粋・再編集。
デイリー新潮編集部
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