今夏はコロナ新変異株「FLiRT」が急拡大中、危険性やワクチンの効果は、秋冬はどうなる?
FLiRTとは
FLiRT変異株は、2024年初期に米国や日本など世界的に感染が広がっていた変異株「JN.1」から派生した。FLiRTの仲間には、「KP」系統や「LB.1」系統など、現在流行している変異株の大半が含まれている。 非公式の名称であるFLiRTは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に共通して見られる変異を表す頭文字に由来する。新型コロナウイルスは、スパイクタンパク質を使って、われわれの鼻や肺の細胞にある「ACE2受容体」と結合して感染を引き起こす。 すべてのタンパク質は、アミノ酸がビーズのように連なってできている。突然変異によって、あるアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わると、タンパク質の働きが変わり、ウイルスはより感染しやすくなったり、免疫を回避できるようになったりする。 現在の新型コロナウイルスワクチンはオミクロン株の一種である「XBB.1.5」に対応しているが、FLiRT変異株のもとになったJN.1のスパイクタンパク質にはすでに、XBB.1.5と比べて30以上もの変異があった。
FLiRTの危険度は
コロナウイルスは、抗体から認識されることを避けるために頻繁に変異する。FLiRTは2つの変異により、抗体が新型コロナウイルスに結合しにくくなっている。 FLiRTのさらなる変異は、ウイルスがACE2受容体に結合する効率を高めて感染力を強めるか、既存の免疫から逃れるのを助ける、またはその両方でありうると、南オーストラリア大学の疫学者エイドリアン・エスターマン氏は言う。 初期の研究からは、FLiRT変異株は、これまでのワクチン接種や、過去のオミクロン株への感染で獲得された免疫を逃れるのに非常に長けていることがわかっている。 一方、われわれにとって有利な点は、FLiRT変異株は抗体を逃れられるようになった代わりに、感染する能力もいくらか失ったように見えることだ。なぜなら、変異によって抗体が結合しにくくなった部位は、ウイルスがACE2受容体に結合して細胞内に侵入するのにも必要だったからだ。 「これらの変異株は、ウイルスの特定の性質に影響を与える新たな変異を持ってはいても、まだ特に懸念するほどではありません」と、米オハイオ州立大学のウイルス学者、劉善慮(リウ・シャンルー)氏は言う。 氏によると、免疫を回避する変異をウイルスが獲得し、それが細胞に感染する能力にも影響するのは珍しいことではないという。「ウイルスはすぐに新しい変異を起こして、感染力を取り戻すことができます」 一方で、最近になって感染者が急増している主な原因は、これまでのワクチン接種や感染で獲得した免疫が弱まっているところに、免疫を回避するFLiRT変異株の能力が重なったためである可能性が高いと佐藤氏は考えている。 劉氏もまた、いま感染者が増えている理由の大部分は、追加接種を受ける人の減少と、夏に旅行する人の増加だろうと述べている。