『容疑者 室井慎次』で明かされた“室井さん”の過去 『踊る』と一線を画すシリアスな作風に
今秋注目の劇場公開作品といえば『室井慎次』2部作だろう。実に12年ぶりの再始動となる『踊る大捜査線』シリーズ。その主役となるのは『踊る』シリーズにおいて青島俊作(織田裕二)と熱い絆を築いた室井慎次(柳葉敏郎)。『踊る大捜査線 THE FINAL』後、警察を辞め故郷の秋田に戻った室井に再び事件の影が迫る、というのが今秋公開の『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』のストーリーだ。 【写真】手錠をかけられ連行される室井さん(柳葉敏郎) そんな室井慎次だが、以前にも彼が主役となった劇場版作品があった。2005年に公開された『容疑者 室井慎次』だ。『踊る』のスピンオフシリーズ「THE ODORU LEGEND CONTINUES」として『交渉人 真下正義』に続いて制作された同作は、9月30日21時より『敗れざる者』『生き続ける者』の公開を記念してフジテレビ系にて放送される。本稿ではテレビ放送に先駆けて『容疑者 室井慎次』の見どころについて紹介したい。 『容疑者 室井慎次』はそのタイトルの通り、室井が逮捕され勾留されているシーンから始まる。『踊る』シリーズを1作でも見たことのある者であれば衝撃的な幕開けだろう。正しいことをしたい、そして現場の捜査員や刑事たちが活動しやすい組織にしたいとシリーズを通して常に奔走し続けてきたきた室井の身に一体何が? と思わせてくれるオープニングだ。従来の『踊る』シリーズは常にアバンタイトル、オープニングムービーがその印象を強く残してきたが、本作は淡々とした空撮と共にシンプルなフォントでキャスト、そしてタイトルが映されるだけのシンプルなもの。このオープニングからも本作が従来の『踊る』シリーズとは違う、異色作であることが示唆される。 従来の『踊る』シリーズはいわゆるエンターテインメント作品として、キャッチーかつユーモラスな空気感が作品の特徴として挙げられるが、『容疑者 室井慎次』は一貫してシリアスなタッチで描かれる。とある殺人事件の事情聴取中に警察官の被疑者が逃亡し、トラックにはねられ即死。捜査本部長として事件の捜査に当たっていた室井は特別公務員暴行陵虐罪の共謀共同正犯、つまり被疑者への暴行を指示した疑いによって逮捕される。警察庁次長と警視庁副総監による派閥争い、組織の事情によって室井が捨て石にされてしまうストーリーは『踊る』シリーズでも常に確固たるテーマとして描かれてきた警察組織の在り方と通じるものがある。本編と比べて一層、いわゆるキャリア組にフォーカスを当てた本作が、従来の『踊る』シリーズとは一線を画した重々しい作品となったのは必然だと言えるだろう。