ウイスキー蒸留所、10年で2.5倍に 海外人気で参入活発化
ウイスキー製造への参入が活発だ。海外での日本製品人気と少量生産品のファン増加を背景に、国内の蒸留所はこの10年で2.5倍になった。焼酎など同じ蒸留酒業者が事業を広げたり、異業種から市場開拓を目指したりしている。(共同通信=相沢一朗) 「一つ一つに個性がある。知らない蒸留所と出合えるのが楽しい」。福岡市で6月に開かれた九州最大のウイスキーイベント「ウイスキートーク福岡」。学生時代に働いたバーでウイスキーのとりこになった佐賀県伊万里市の男性会社員(27)は笑顔で話した。 国内外のメーカーなど123のブースが出展。熟成途中の原酒の試飲や、品質を管理するブレンダーによる講演を目当てに過去最多の約3千人が詰めかけた。 創業340年以上の日本酒蔵、江井ケ嶋酒造(兵庫県明石市)は、九州での認知度を広げようと初めて参加。当初は酒造りのない夏場に手がけていたウイスキーの生産量は10年前の約3倍に拡大し、今や売り上げの約9割を占める。
海外からの引き合いが業績をけん引。中村裕司(なかむら・ゆうじ)ウイスキー蒸留所長は「海外は新型コロナウイルス禍で家飲み需要が増えた」と言う。 日本の2023年のウイスキー輸出額は500億円。前年より減ったが、2015年に比べ5倍近い規模となった。 国税庁によると、ウイスキーの製造免許場は2023年3月末時点で181。多くは中小規模で、都道府県別では焼酎製造が盛んな鹿児島県が最多だ。担当者は「蒸留酒のノウハウを生かしやすい焼酎メーカーには参入障壁が低いのではないか」と分析する。 芋焼酎「薩摩宝山」などで知られる西酒造(鹿児島県日置市)は、2019年にウイスキーの蒸留を始め、2023年12月に第1弾商品を売り出した。責任者の真喜志康晃(まきし・やすあき)さんは「日本で人気のウイスキーは海外でも飲んでもらえる。世界から注目される製品にしたい」と語る。 産業機器メーカー、吉田電材工業(東京)は2022年10月、新潟県村上市に蒸留所を開いた。複数の穀類を用いるグレーンウイスキー専業のクラフト蒸留所は国内初で、将来は全原料の国産化を目指しており「ものづくりの緻密さで味わい深さを出したい」と意気込む。
「海外での日本ウイスキー人気のピークは過ぎたが、ファンの土台は広がった」と指摘するのは本坊酒造(鹿児島市)の本坊和人(ほんぼう・かずと)社長。1949年からウイスキー製造に携わる老舗で、かつて供給過多となった冬の時代も経験した。「ウイスキー蒸留は経験がものをいう」と、専門性と独自性に磨きをかける。