老化で精子の遺伝子制御が変化、子の神経発達障害リスクに 東北大
父親の加齢が精子の遺伝子の働きに影響し、子の神経発達障害のリスクになることがマウスの実験で分かったと、東北大学の研究グループが発表した。既に、DNAやDNAを巻き取るタンパク質への物質の結合による影響について示していたが、遺伝子の働きを調整する「マイクロRNA」も変化していることを、新たに明らかにした。
メスは出生時に持つ卵母細胞が卵子となり、1個ずつ排卵されていくのに対し、オスの精子は精巣で次々作られる。卵子の老化は広く知られてきたが、精子の側について、後天的に遺伝子の働き方が変わる「エピジェネティック」な変化に焦点を当てる成果となった。
対人関係を苦手とする「自閉症スペクトラム障害」などの神経発達障害の発症リスクには、母親より父親の加齢の影響が大きいことが報告されている。研究グループはこれに着目し、エピジェネティックな変化の要因を明らかにしようと、マウスの実験を続けた。これまでに精子の形成においてDNAや、DNAを巻き取るタンパク質「ヒストン」への、物質の結合が加齢で変化し、遺伝子の働き方に影響することを示してきた。さらにエピジェネティックな要因として残る、マイクロRNAの影響の解明に挑んだ。
マイクロRNAは、細胞内でタンパク質のでき方の調整役をする。生物の体の設計図が書かれたDNAの情報は、まずメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取られ、この情報を基にタンパク質が作られる。タンパク質は体でさまざまな働きをして生命活動を支える。この過程でマイクロRNAは、mRNAに結合することでタンパク質をできなくし、遺伝子の働きを制御している。
研究グループは精子に含まれるマイクロRNAの、加齢による変化を解析した。その結果、生後3、12、20カ月のマウス精子で合計447種類がみられ、そのうち全月齢に共通するのは半分の210種類。その他は加齢で変化していることが分かった。変化したマイクロRNAには、細胞死や神経系に関わるmRNAに結合するものが多かった。特に自閉症スペクトラム障害に関わる遺伝子の量と、それらを調整するマイクロRNAの量とが、強く逆相関していることが示された。具体的には、社会性や、神経活動の抑制性のための遺伝子が、それらに対応するマイクロRNAが加齢で増えたのに対し、減っていた。