海外不動産に投資した日本人の本音…日本ではありえない「魅力」と、日本では考えられない「リスク」
純粋な投資と考える人とは違うメリットを見出す人たちも
「中国への強硬姿勢を打ち出していたマハティール政権に政権交代したり、(通貨)リンギットが下落して日本円換算の価値が大きく下がるなどの誤算もあった。東南アジアや中国など、国際ニュースに関心を持ち、詳しくなったのはメリットと言えるかもしれないが......」 一方、日本に住みながら投資対象として海外不動産を選んだ人たちと違った事情を持つのは、セカンドハウスや移住先として海外の物件を購入した人たちだ。 1987年に英ロンドンで日本人の投資家や移住者向けにイギリスの不動産を紹介・販売する会社を設立し、現在では賃貸事業も手がける店舗を市内6カ所に持つ「ロンドン-東京プロパティーサービス」の菊地邦夫CEOは言う。 「もともとは自分が自宅としてロンドンで買ったセミデタッチドの『コンバージョンフラット』という大きな一軒家を改装して複数の住宅に区切った形式の住宅が、80年代に大きく値上がりした。これで不動産に興味を持ち、それから28件の投資物件を購入してきた」と言う。 不動産事業としては「コロナの時期以外は売り上げが下がったことがない」というほど、ロンドンで不動産を求める日本人は安定的に推移しているという。 客層として多いのは「会社経営者や医師などの富裕層」であり、純粋な投資として賃貸物件を買う人も少なくない。一方で「子供がイギリスのボーディングスクールや大学に留学するのをきっかけに自分や家族もたまに滞在するために購入する人や、定年後に移住するために購入する人も多い」と言う。賃貸に出す場合は「きれいに住んでくれて家賃の不払いなどの心配もなく、平均3~5年ほど住む日本人駐在員に貸すのが安心だと考える投資家が多い」。 そのため人気があるのは、都心部から少し離れた日本人学校があるような駐在員に人気のエリアだ。「これらの場所では1億円くらいから物件が購入できるので、サラリーマンにも買いやすい。自分が住んだり日本人駐在員に貸す場合は、利便性の高いマンションの人気が高い」と言う。 菊地によれば、「『イギリス人は仕事や生活形態の変化に合わせて一生に8回ほど家を買い替える』と言われるほど、イギリスでは不動産売買が盛んで、資産価値として安定しているという魅力もある」と言う。その上で、「教育や文化が盛んで、気候が穏やかなイギリスは本当に住み心地がいい。マイペースに、豊かに過ごせる」と、引退後の移住先としての魅力を語った。 ■移住や滞在先として考えないなら現物とは別の方法が 純粋な投資対象として見ると、国ごとの事情や日本との商習慣の違いなど難しさもある海外不動産だが、三井住友トラスト基礎研究所の安田も「移住のため、旅行の際の滞在先のため、子供の留学のためなど、投資という観点だけではない人にとっては別の魅力がある」と話す。 ただ、日本にはない成長性など投資対象としてのメリットを海外不動産に求めるのであれば、必ずしも現物の不動産を購入する必要はないと安田は言う。「それなら不動産が証券化された商品であるREIT(不動産投資信託)を買うのがいい。手数料はかかるものの、現物と違って流動性が高く、管理の難しさなどに煩わされることなく海外不動産投資のメリットだけを享受できる」からだ。
藤田岳人(本誌記者)