越乃リュウ「宝塚を退団、燃え尽きていた私を癒してくれた自然の力。スマホの写真で、7年前訪れた新潟県の法末を思い出す」
100年を超える歴史を持ちながら常に進化し続ける「タカラヅカ」。そのなかで各組の生徒たちをまとめ、引っ張っていく存在が「組長」。史上最年少で月組の組長を務めた越乃リュウさんが、宝塚時代の思い出や学び、日常を綴ります。第71回は「自然が与えてくれる力」のお話です。 (写真提供◎越乃さん 以下すべて) 【写真】笠をかぶったおじいさんと私の後ろ姿 * * * * * * * ◆新幹線に飛び乗って 新潟県の長岡市と小千谷市の境の山間地に、法末(ほうすえ)という集落があります。棚田が広がるのどかな里山です。訪れたのは今から7年程前。テレビの番組で、カメラで写真を撮りながら集落を旅するというものでした。 スマホの中にその時の1枚の写真を見つけ、法末のことを思い出しました。傘を被ったおじいさんと私の後姿。人生で大切なことを、この集落とおじいさんに教えてもらった旅でした。その日私は銀座で舞台に立っていました。 終演後ダッシュで楽屋を飛び出し、新潟行きの新幹線に飛び乗りました。 日本のど真ん中から山奥の集落へ。 クタクタで乗り込んだ新幹線。 道中私のスマホは「圏外」になりました。 お世話になった方や観に来てくださった方に舞台のお礼なども送れないまま、その日から3日間私は音信不通となりました。 銀座から一変して田舎ののどかな景色。 コンビニやスーパーどころか、家も街灯も信号も見当たりません。 泊まるのは廃校になった小さな小学校の、かつては教室だったであろう広い部屋です。 タイムスリップしたような不思議な感覚になりましたが、田舎育ちの私にはどこか懐かしく落ち着ける空気がありました。 そして、法末の皆さんはとても温かく迎えてくれました。
◆自然には人を変える力がある 記憶力の乏しい私ですが、今でもそのときの景色を思い出せます。 棚田の美しさと、茅葺の民家、綺麗に手入れされた畑や花壇、山からの眺め、自然の風景、人の温かさ。こうもりの洞窟で怖くて大騒ぎしたことも、登山でヘトヘトになって見た綺麗な景色も、足湯をしながら見た棚田に沈む夕日も、中越地震で大きな被害を受けながらも、力を合わせて復旧を進めたというお話も。 もともと涙もろい私は、言葉よりも先に涙が出ます。 自然や文化を守り、みんなで助け合う暮らしぶりや生き方に触れ、自然の雄大さや美しさに触れ、感情が揺さぶられ自然と涙が溢れていました。 その頃の私は、宝塚を退団し、燃え尽き症候群からやっと抜け出し動き出したばかりでした。 すぐに涙を流す私に、案内をしてくれた傘を被ったおじいさんがいろんな話をしてくれました。 後姿の写真の私の背中が、心なしか小さく見えます。 ずっと心の中にある風景に今も背中を押され、励まされます。 自然には人を変える力があるといいます。 この場所で、自分の中の何かが変わっていくのを少しずつ感じていました。