「痛くなったら歯医者に行く」 のは昔の話…50代からでも遅くはない「真剣な歯磨き」のススメ
歯ブラシ選びも真剣に
真剣に歯ブラシを使うようになって気づいたことは、歯磨きには個人差があり、自分で正解の歯ブラシを探し出さなければいけないという点だった。 理想の歯ブラシを見つけるためには、利き腕のクセ、性格、ライフスタイル、磨いている時間などを考慮して、何百通りの歯ブラシの中から、最適な1本を探さなくてはいけない。今まで何気なく買っていた歯ブラシも、持ち手の形状を見たり、先端を比べて見たりして、自分の口の中に歯ブラシ突っ込んだイメージを膨らませながら、真剣に選ぶ必要があった。 こだわりの強い男性にとったら、面白い趣味がひとつ増えたような感覚である。しかも、 1本数百円の商品なので、出費も大きくない。次第に歯ブラシ選びが面白くなり、ドラッグストアに立ち寄って、新商品の歯ブラシを見る機会が増えていった。 3か月後に再び片平歯科医院に検診に行くと、歯科衛生士が驚いた表情で言った。 「磨き残しは19%です。ついに20%を切りましたね!」 歯科衛生士の誉め言葉に乗せられて、さらに歯磨きに熱中するようになった。そして9か月後の検診では、ついに磨き残しは8.93%となり、その後も磨き残しの割合は低い数値をキープし続けている。 歯磨きを真剣にやりはじめた“副産物”として、太らなくなったことが挙げられる。丁寧に時間をかけて歯磨きをすることで、その後に余計な間食をすることがなくなったのだ。「また一から歯を磨くのは面倒だ」という気持ちが勝り、歯を磨いた後は、どんなにお腹がすいていても夜中に食べ物を口にすることがなくなった。 それまでは筋トレをしても、すぐに間食をしてしまい、リバウンドを繰り返していた。しかし、歯磨きを真剣にするようになってから、ピーク時の体重とくらべて、マイナス13kgの状態を2年以上維持できている。
「治療を受ける側の努力」も必要
自分のように歯磨きに真剣に取り組む中高年は増えているのだろうか。片平歯科医院の片平先生に話を聞いてみた。 「今の中高年の方が子どもの頃に通っていた歯科医院は、治療中心がほとんどでした。その影響もあって、『痛くなったら歯医者さんに行けばいい』という考え方が、当たり前になっていたところがあります。しかし、最近はその考え方も変わり、『治療』と『管理』の連携型の歯科医院が増えています。虫歯や歯の欠損などを修復し、口腔機能を回復させたのち、歯磨きで歯の健康を維持することが、歯の新しい治療の考え方として浸透しつつあります」 どうやら『痛くなったら歯医者さんに行けばいい』という考え方は、私だけではなかったようだ。片平歯科医院のおかげで、歯に対する考え方が180度変わったことは、これから始まる老後の生活においても大きな収穫といえる。 「患者様にはできるだけ歯の健康状態を数値化して伝えるように心がけています。『キレイに磨けていますね』や『もっと丁寧に磨きましょう』という抽象的な言葉だと、やはり歯磨きに対する気持ちがだんだん薄れてきてしまいます」 今回の治療を通じて、歯の健康維持には、歯科医院の努力だけでなく、歯の治療を受ける側の努力も必要だということが分かった。私は歯科医院と患者の頑張りの比率は「5:5」ぐらいだと思っていたが、歯科衛生士の佐藤なつきさん曰く、「7:3」で患者の歯磨きに対する頑張りが必要だという。 「歯科医院に定期的に通うことも、歯を丁寧に磨くことも、患者様の『歯を大事にしたい』という思いがなければ成立しないことです。その前向きな気持ちや頑張りをサポートすることが、私たちの役割だと思っています」 歯の治療の誤解を解くために、片平歯科医院では、小児の歯の治療にも力を入れる。 「子どもの頃に1個目の虫歯を作らないことが大切なんです。3歳から歯科医院に通い始めて、永久歯が生えてくる6歳までに虫歯がなければ、その後は歯の健康が維持される確率が高くなります。子どもの頃から歯のメンテナンスに対して高い意識を持ってもらうことが、私たち予防歯科に力を入れる歯科医院の役目だと思っています」 私のような歯の定期健診をさぼりつづけてきた団塊ジュニアの世代が、これから次々に歯を悪くしていく。しかし、「痛くなったら歯医者さんに行けばいい」という考え方自体を改めない限り、歯の健康を維持し続けることは難しい。 気づくのが遅かったが、50代にして歯磨きの重要性を知ることができたことはラッキーだと思うしかない。これからも片道2時間かけて歯科医院に通い、風呂で丁寧に歯をせっせと磨いていこうと思う。
竹内 謙礼(経営コンサルタント)