「痛くなったら歯医者に行く」 のは昔の話…50代からでも遅くはない「真剣な歯磨き」のススメ
「歯の治療」に抱いていた誤解
歯茎が再生しないのであれば、これ以上悪化させないように処置するしかない。今後、どのような治療が必要になるのか歯科衛生士に聞いてみた。 「毎日、しっかり歯を磨きましょう」 幾度となく言われた言葉だった。毎回、丁寧な歯の磨き方を教わっても、「そんなに時間はかけられない」と思ってしまい、すぐに我流の磨き方に戻していた。自分なりに歯を丁寧に磨いてきた自負もあり、検査の日も、自宅で念入りに歯を磨いてきたので、「磨き残しはほとんどないだろう」と自信満々で診察台に座っていた。 「磨き残しは62.5%です」 プラーク検査(磨き残しの検査)で6割以上の歯が磨けていないことを告げられた。歯の磨き方を数値化されて告げられたのは初めてだった。自分の子どもに「歯磨きをちゃんとしなさい」と怒っていた親が、まったく歯磨きができていなかったのである。 ここで自分自身が歯科医院に対して大きな誤解をしていることに初めて気がついた。『歯科医院=歯を治すところ』と思っていたので、歯の状態を良くするためのすべての責任は、歯科医院にあると思っていた。しかし、実際は5:5ぐらいで自分自身にも責任があり、歯科医院と二人三脚で歯の健康を維持する努力をしていかなければいけないのである。 今回の歯周病も、歯石が溜まったら歯科医院で除去してもらうのではなく、歯石が溜まらないように日々の歯磨きをしっかり行い、そのうえで、検診の際に細かい歯石を除去してもらう“二段構え”で治療しなければいけない。 どうやら歯の治療の根本的な考え方から変えていく必要がありそうだ。
どうしたら歯磨きに長い時間をかけられるのか
その日のうちに、歯科衛生士から歯磨きのレクチャーを受けた。歯ブラシの上にたっぷりと歯磨き粉を乗せて、前歯から1本1本の丁寧に磨いていく。上下の前歯の歯磨きが終わったら、次は裏側。八の字を描きながら、奥歯までしっかり磨き切る。時間にして約10分間。 この方法を教わった時、真っ先に「こんなに歯磨きに長い時間をかけることはできない」と思った。さすがにこのルーチンを朝昼晩に行うのは難しい。 さらに違和感を覚えたのが、「歯間ブラシ」だった。ひとつひとつの歯の間にブラシを入れることが気色悪かったし、場合によっては出血もして、歯を痛めつけているだけではないかという思いにもなった。 こんな大変な歯磨きを、果たして毎日続けることができるのか。しかし、このまま我流で歯を磨き続けていれば、数年後には歯が抜け落ちて、硬いものや美味しいものが食べられなくなってしまう。 心を入れ替えて、真剣に歯磨きを始めたところ、出だしから躓いてしまった。朝夕の忙しい時間帯に、長時間の歯磨きで洗面所を占拠してしまうことで、妻や娘からクレームを受けてしまったのである。 どうすれば長時間、歯を磨く場所を確保することができるのか。悩んだ挙句、風呂に入浴した時に一緒に歯を磨けば、家族に迷惑をかけることなく、じっくり歯を磨けるのではないかと考えた。 試しに実践してみたところ、予想以上に入浴中の歯磨きは快適だった。風呂にポータブルテレビを設置して、鏡を持ち込んだことで、さらに歯を長時間磨くことが苦痛ではなくなった。 歯磨きは2本の歯ブラシを使い分けることにした。朝と昼は時間がないので、歯の全体を磨けるような大きめの歯ブラシを使い、夜は風呂でじっくり歯を磨くために、ヘッドの小さい歯ブラシを使用して、奥歯まで丁寧に磨くことにした。 歯間ブラシも、2週間ほど使えば慣れてしまった。その後は「歯間ブラシをしないと気持ち悪い」と思えるほど、自分の生活に馴染んでいった。 1ヶ月後の検診の日がやってきた。 「磨き残しは34%です! 凄いです! 確実に歯の磨き方が上手になっていますよ」 歯科衛生士が自分のことのように喜んでくれた。この1ヶ月間の正しい歯磨きによって、歯の出血がなくなり、歯茎が引き締まった感覚が口の中に広がっていた。明らかに歯が健康体に近づいていることが自分でも分かった。 しかし、あれだけ一生懸命歯を磨いていたのにもかかわらず、まだ磨き残しが3割ある。無性に悔しい気持ちが込み上げてきた。一体、何がいけなかったのか。歯磨きがゲームの攻略法のような存在になり、歯科衛生士に歯の磨き方の相談をすることが、次第に楽しくなっていった。