焼き肉食べ放題「女性半額」が“差別”だと炎上…不満ある男性が「法的に争う方法」はある?
憲法の「平等原則」違反を問うことは不可能
次に問題となるのが、焼き肉店ないし焼き肉チェーン側に対して不当利得返還請求を行う法律上の根拠だ。 荒川弁護士:「焼き肉食べ放題を利用する場合、焼き肉店が飲食物を提供し、それと引き換えに客が料金を支払うという契約が存在します。 その契約中の料金の定めのうち、男性料金3938円と女性料金の1969円との差額の1969円分が、無効だと主張することが考えられるでしょう」 「女性と比べて不当な差別を受けている」ということを理由とする場合、まず真っ先に思いつくのが、憲法の「平等原則」(憲法14条)だが…。 荒川弁護士:「憲法は、ごく一部の例外を除き、あくまでも『国家』対『私人』を規律するものであり、『私人』対『私人』には適用されません。私人間では『私的自治の原則』『取引自由の原則』がはたらくためです。 その一環として、焼き肉チェーンがどのようなキャンペーンを行うのかは、原則として自由です」
「私人間の男女差別」についての「判例」はどうなっているか
本件については別として、「私人間」の関係ではどのような不合理な差別も許容されてしまうのか。 荒川弁護士:「実は、『私人間の契約における男女間の差』については、リーディングケースとなる最高裁判例があります。『日産自動車事件判決』(最高裁昭和56年(1981年)3月24日判決)です。 これは1960年代の事件です。当時、日産自動車では就業規則で定年が男性は60歳、女性は55歳と定められており、女性従業員がこの就業規則を無効だと主張して訴えました。 最高裁はこの就業規則の男女別定年制の定めを、公序良俗違反(民法90条)であり無効としました」 判決文には以下のように書かれている。 「就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法14条1項、民法1条の2(※)参照)」 ※現在は民法2条 荒川弁護士:「最高裁は、憲法14条1項の『平等原則』と、民法旧1条の2(現2条)の『個人の尊厳と両性の本質的平等』を挙げ、『不合理な差別』は許されないとしています。 民法90条の解釈において、憲法14条の趣旨を織り込んで判断しているということです。また、『両性の本質的平等』を重要な解釈指針として示しています。 女性のほうが男性より、働ける期間が5年も短いというのは大きい差だし、得られる収入も5年分少ないという著しい格差が生じます。老後の生活資金にも大きな影響を及ぼします。 これほどの甚だしい格差が、もっぱら性別のみを理由として設けられたという点が重視されたと考えられます」