忙しくて本が読めないすべての「働く読書人」にとって必読の一冊をレコメンド!
「ちくしょう、労働のせいで本が読めない!」――働く全読書人の心情を代弁するようなパンチラインである。こんな熱い一節から始まるのが、文芸評論家の三宅香帆さんの新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』だ。 【書影】『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 明治から2010年代に至るまでの百余年にわたる読書史から労働史を読み解く画期的な本である。 目まぐるしく日々の労働に追われる中で、私たちは読書とどのように向き合えばいいのか、著者本人に話を聞いた。 * * * ――初めは「読書論を書いてほしい」という依頼があったそうですね。そこから、どのような流れで「読書史から労働史を読み解く」というテーマにシフトしたのでしょうか? 三宅 個人的に「読書論」と聞くと、軽いものでは『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫)や、もう少し専門性の高い内容では、文芸評論家が特定のテーマについて論じた本などが主流だと思っていました。 ところが、アマゾンの「読書法」ランキングで売れ筋の本をチェックしたときに、速読法や手軽に知識を得られるもの、コスパやタイパの向上を説く本が想像以上に多かったんです。読書を娯楽として楽しむことよりも、いかに明日からすぐにビジネスで使える"教養"を得られるかが重要視されるんだなと思って、驚きました。 読書文化が変容しているこの時代に、「労働と読書をどう両立させるか」という問いのほうが切実だと感じたので、このテーマを掘り下げることにしたんです。 ――まさしく、この本のタイトルにもなっている問いですね。 三宅 以前、『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)の著者レジーさんと、労働とカルチャー受容の両立をテーマに対談したのですが、その際に出てきた言葉がそのままタイトルになりましたね。 また、その対談の公開時には「自分も働いていると本が読めない」と多くの方から反響をいただいたことも大きかったです。自分自身、この本は会社員と評論家を兼業でやっていた時期に本が読めなくなったから書けたのだと思っています。もし専業で評論家をしていたら、そこまでこのテーマに興味を持てなかったと思います。