技術継承と染め直し、D&DEPARTMENTのファッション産業の課題への向き合い方
「多くの産地で倒産が増えている」、産地の抱える課題
産地の状況は刻々と変化している。産地の多くが「作れない産地」になりつつあり、モノ作りのリードタイムが長くなっている。「多くの産地で倒産が増えている。いろんな産地でいろんな変化があり、一概に何が原因とはいえないが、共通しているのはリーマンショック後から緩やかに沈みはじめ、新型コロナウイルスの感染拡大が拍車をかけたこと。コロナ禍では補助金や融資があったが、その返済が難しくなり、事業者に高齢の方が多いこともあってか、疲れてしまって廃業や倒産を選ぶ事業者が増えている。今、特殊な技術を持つ方の多くは60代後半から70代。彼らが今まで日本のモノ作りを支えてくれているが、後継者がいないし、現状は少量生産で取り組むしかない。例えば、チェーンステッチで脇を縫う人がいなくなったら、縫製の仕様書自体を変えなきゃいけなくなる。こういうことが連続的に起こっている」と話す。
モノ作りを絶やさないために考えられること
日本でモノ作りできる環境を残すにはどうすればいいのか。
「一つの方向として、製造メーカーが自社ブランドを立ち上げることがある。例えば山梨の『WAFU.(ワフ)』は縫製業だけでは言い値で安い賃金で請け負うことになってしまうと危惧して自社ブランドを立ち上げた。今ではOEMを一切せずに自社ブランドのみで利益を出せる体質に移行できている。『ワフ』のように高付加価値のモノ作りの自社ブランドを立ち上げるメーカーは増えており、自社ブランドの利益比率を上げようと取り組む企業が増えている。自社ブランドとOEMの黄金比は各企業により異なるが、両軸を持つことが会社の安定につながるケースが多い。たとえ、自社ブランドの売り上げが伸び悩んでも自社ブランドを通じて発信ができるため、OEMの依頼が増えて会社が安定することもある」。
廃業する工場を産地のメーカーがM&Aを行うケースも散見するようになった。「例えば、2011年に継続できなくなった新潟県の織物工場をマツオインターナショナルの松尾産業が子会社にしたケースでは、設備投資や機械を独自改造することでオリジナル生地の生産ができるようになった。友人のテキスタイルデザイナーや若いデザイナーたちがそこで生地を作っている。このケースのように技術を引き継いでいければいいと思う一方、難しいケースも多い。最近ではニット産地の山形できらやか銀行の経営悪化によって取引先が相次いで倒産し大きな影響を及ぼしている。取引先のニッターも倒産した。一緒に取り組むデザイナーと話し合い、彼は出資し合って小規模ロットの対応ができる工場を共同運営することも考えたいと話していた。そんなときに候補にあった廃業予定の小さなニット工場が『もう少し頑張ってみる』と継続を決めた。けれどM&Aを行うような体力のある会社もなかなか見つからない状況で見通しは不透明だ。もう一つは、工場に無理をさせない方法でモノ作りを行うことも大切だ。私たちは秋物の納期を5月に設定し、閑散期に無理をせずに生産していただいている」。