潜在能力を「見る」ことで発見する 岡田彰布監督の木浪聖也評が「情けないで」から「尊いのよ」に変わった理由
八番の役割を理解し努力する
まず八番という打順の役割を、すべて分かっていた。八番という打順は軽く見られがちだが、決してそうではない。打線に流れがある中、八番によってそれがうまくつながり、機能する面白さがある。 それを木浪は理解できていた。例えば二死で回ってきたら、なんでもいいから出塁して九番の投手まで回す。これで攻撃が終わっても、次は一番から始まる。そういう形づくりができる打順であり、先頭で臨んだ場合、ここで出塁し投手の送りバントで、チャンスを膨らませる。2023年、一番・近本の得点圏打率が高かった要因が、八番・木浪の出塁によるものやった。 オレは八番・木浪を動かさなかった。近本が死球で欠場したとき、一度だけ動かしたけど、それ以外は八番に固定。そのうち、マスコミには「恐怖の八番」と称されるようになり、オールスターのファン投票で大きな支持を集めた。八番という打順では画期的なことやと思うけど、ファンも木浪の働きを高く評価して、オレはそれがうれしかった。
ベンチから放物線に見ほれていた
バッティングでは構えを変え、バットを寝かすように入り、うまくタイミングを取れる工夫をしていた。そこに行き着くまでの努力というのかな。やってきたことが実を結ぶ。これが尊いのよ。失いかけた自信が再び芽生え、あれは8月26日の巨人戦(東京ドーム)やった。5回にタイムリーを打ち、7回には満塁ホームラン。これが木浪の「2023年シーズン初本塁打」になった。打ち合いに決着をつける一発……。うれしかったよね。ベンチから放物線に見ほれていたもん。 守りにしても、失策は確かに多いよ。だが致命的なエラーは少なくなったと思う。これまでも阪神はエラーの多さを指摘されていた。ゲームだからミスは出る。これは仕方ない部分もある。でも負けに直結するようなミスが減ったことが大切なんよね。そら、エラーの数を減らすのは大事やけど、中身の問題やとオレは思っている。 イージーなミスはなくせ。アウトにできる簡単なプレーは正確にアウトにする。こちらはいつもいつもファインプレーを期待しているのではない。守りの基本というのかな、簡単にミスするなってことで、エラーの数は多かったけど、オレは間違いなくよくなっている、と言い切れるし、その代表格が木浪のショートやったと思っている。 写真=BBM
週刊ベースボール