『虎に翼』岡田将生が体現する航一の“不器用な優しさ” 寅子は複雑な恋心に考え悩む
『虎に翼』(NHK総合)第93話では、美佐江(片岡凛)への対応を間違えたと気落ちする寅子(伊藤沙莉)のもとに航一(岡田将生)が訪ねてきた。 【写真】帰り際、寅子(伊藤沙莉)に何か言いかける航一(岡田将生) 第93話は、「ああいう時のお母さんといてもつまんないから」と言いつつも、思い悩む寅子の心中を深く理解している優未(竹澤咲子)の優しさもさることながら、寅子を心配し突然訪ねてしまう航一とのやりとりが印象的な回となった。 「読まなければいけない書類がたまっていて」 「読む場所はどこでも構いませんので」 寅子のもとを訪れた航一の言葉だ。第91話で航一と寅子が交わした、「では、お会いしに行っても?」「えっ、何をしに?」といういまいち噛み合わない会話が思い出されるような、航一の不器用すぎる口実に少しおかしみを覚える。言葉少なな航一と素直だが自分の感情にはやや疎い寅子の間にはしばらくの間、沈黙が続く。しかし語り部(尾野真千子)が語るように、寅子の側にいながらも何も喋らず黙々と書類を読む航一の存在は、寅子の気持ちを軽くしていった。 寅子を演じる伊藤と航一を演じる岡田の佇まいは自然体だ。沈黙の中、それぞれ黙々と作業する寅子と航一が、お互いに不思議な安心感を覚えているのが分かる。
寅子(伊藤沙莉)自身も受け止めきれていない航一(岡田将生)への気持ち
ただ、寅子も航一も、相手を気遣う心はあるが、自分たちが抱いている感情を捉えきれていないうえ、言葉にして伝えることはあまり得意ではないようだ。 顔を見合わせてどこか気まずい空気になる場面には、やきもきさせられる。航一が口にした「ごめんなさい」は、突然の訪問への謝罪だろう。とっさに寅子は、航一が自分に寄り添おうとしてくれたことについて「うれしいんです。来てくださったことも、何も言わずにそばにいてくださったことも」と素直に感謝を伝えた。だが、「でも……」と続けたきり言葉が出なくなる。航一もまた「僕も無意識に弱っているあなたにつけ込もうとしていたのかもしれません。すみません」と謝罪する。 去り際、航一は何か言いたげに立ちすくんでいた。けれど、航一と寅子は「ではまた」「また本庁で」以外に言葉を交わすことはなく、航一は何かを言おうとして言えないまま、頭を下げたように見えた。岡田の面持ちには、寅子を心配する航一の不器用な優しさが滲み出ている。しかし言葉少なな航一の思いがどれほど伝わっているのかは分からない。寅子もまた、航一に対する「胸が苦しくて、息が詰まる」ような感情に気づきながらも、その答えから必死に目をそらすことしかできない。伊藤の佇まいが見せる微細な感情変化に魅せられる。物語序盤の寅子は美佐江への対応で思い悩んでいた。航一が去った後に座り込む姿からは、胸の奥からこみ上げてきた感情について考え悩む様が痛いほど伝わってきた。 寅子と航一の場面は優しくも切なく、観ていて心苦しくもなる。そんな中、久方ぶりに寅子のパッと明るい笑顔を引き出したのが花江(森田望智)の訪問だ。イマジナリーではなく、本物の花江との再会に寅子は大いに喜んだ。花江との時間もまた寅子の心を軽くしていくはずだ。
片山香帆