原点は1989年の「コロンビア・ピクチャーズ買収」“エンタメの会社”となったソニー、Netflixとディズニーが牛耳る「世界の映像ビジネス」への挑戦
約500億円を出資して、KADOKAWAの筆頭株主となったソニー。営業利益の約6割をゲーム、音楽、映画で稼いでいるソニーにとって、KADOKAWAが持つアニメを中心としたコンテンツは重要なものとなるのは間違いない。「エレキの会社」から「エンタメの会社」となったソニーの足跡について、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。【全3回の第3回。全文を読む】
今が正念場
「はじめの一歩」は1989年、創業者の盛田昭夫会長(当時)が決断したコロンビア・ピクチャーズの買収だろう。 実はこの時、創業者のスティーブ・ジョブズを放逐したアップルが低迷しており、ソニーに「買わないか」と打診があった。それでも盛田氏は「アップルのような会社はいつでも買えるが、映画会社は今買わないと、二度と買えない」とコロンビアを選んだ。 しかし、米国で業界最下位の映画会社は、湯水のように金を使う不良プロデューサーの巣窟で、出井伸之氏、ハワード・ストリンガー氏ら歴代社長はその立て直しに多くの時間を奪われた。映画事業がようやくものになったのは『スパイダーマン』がヒットした2002年であり、10年以上かかったことになる。 ソニーを「エンタメの会社」にしたのは、ゲーム事業を手がけるソニー・コンピュータエンタテインメントから2012年にソニー本体の社長になった平井一夫氏と、参謀役を務めた現会長兼CEOの吉田憲一郎氏とされる。 その吉田氏は、こう振り返る。 「今のソニーになるための種は20世紀に植えられていた」
ソニーが世界のレコード市場で20%のシェアを握っていた米CBSと、合弁会社の「CBS・ソニーレコード」を設立したのは1968年。この合弁会社の設立20周年を祝う式典で、当時社長の盛田昭夫氏はこう語っている。 「ソフトの発達により、新しいハードウエアも初めて人の役に立つのです。どうか、この次の30周年を祝う時には、音だけでなく映像も含めた、もっと大きな、もっと幅広いソフトウエアビジネスを確立していってほしいと思います」 どんな優れたハードもソフトがなければただの箱。盛田氏はそのことを誰よりもよく知っていた。企業文化も異なるKADOKAWAの買収はコロンビアのように手こずるかもしれない。だが、リスクを取らなければ戦う土俵にすら立てない。 今、世界の映像ビジネスを牛耳っているのはハリウッドの映画会社ではなく、ネットフリックスとウォルト・ディズニーだ。時価総額で言えば、それぞれ約60兆円と30兆円で、20兆円に届いたばかりのソニーとはまだ大きな開きがある。 日本が得意とするゲーム、アニメを起爆剤に世界のエンタメ・プラットフォームに突き抜けられるか。今が正念場である。 ■全文公開:【ソニー帝国の野望】KADOKAWAのコンテンツを“弾”に世界市場を狙う “エレキの会社からエンタメの会社へ”20年で大きく変わった「稼ぎ方」を完全レポート 【プロフィール】 大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日経新聞編集委員などを経て2016年に独立。著書に、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など。ベストセラー『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(新潮文庫)が文庫化されて発売中。 ※週刊ポスト2025年1月3・10日号