【お寺の掲示板131】仏の教えで自分自身の「闇」を見つめる
「光あるところに影がある」はアニメ『サスケ』の冒頭で流れるナレーションでした。武将の栄光の影には、あまたの忍者の犠牲があったと続くのですが、ゾロアスター教の昔から、光は希望であり、闇を打ち破る力でもあるのです。(解説/僧侶 江田智昭) ● 自分自身の「影」と向き合う 今回の掲示板の言葉は、世界的なスーパースターであるレディー・ガガの発言から。原文は、“If you don’t have any shadows, you’re not in the light.”と、二重否定の構文になります。 レディー・ガガは現在、歌手としても俳優としても非常に大きな名声を得ていますが、富裕層の通う学校ではひどいいじめを受け、踊り子となり、歌手として売れない時代を経験するなど、数多くの苦労を重ねたようです。そのような状況の中で、自身の暗い影の部分をじっくり見つめることがあったのかもしれません。 ユング心理学には影(シャドー)の概念があります。影とは、他人には見せられない、抑圧された人格。つまり、自分では認めることができない側面を表すものです。 どんな人間にも必ず影の部分があります。その影の部分を決して見たくはありませんが、ユング心理学では、影と向き合い、影とのつながりを大切にしながら、心の健康や全体性を回復させることに重点が置かれています。 童話作家として有名なアンデルセンの小説に『影』という作品があります。 ある日主人公である学者の「影」が自身を離れて、一人で生きていくことになりました。その後、「影」は金も名誉も手に入れて、学者のもとに戻ってきます。その頃には学者は落ちぶれており、地位は完全に逆転していました。 やがて「影」は王女と結婚することになり、「影」の知られたくない秘密を知っている学者は自身の「影」から殺されてしまいます。実に不気味で恐ろしい物語です。 作家の村上春樹氏が「ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞」授賞式の際、この作品に言及し、スピーチで以下のように述べていました。 アンデルセンの「影」には…(中略)…自己発見の旅のあとが見て取れます。これはアンデルセンにとってたやすい旅ではなかったはずです。彼自身の影、見るのを避けたい彼自身の隠れた一面を発見し、見つめることになったからです。でも、実直で誠実な書き手としてアンデルセンは、カオスのど真ん中で影と直接に対決し、ひるむことなく少しずつ前に進みました。