米国のスパイ法、日本も人ごとではないのに議論されるのは米国民の人権のみ 年末の期限切れ控え政権と議会が攻防【ワシントン報告⑨インテリジェンス】
▽ウォーターゲート事件がきっかけ 日本の場合、憲法で「通信の秘密は、これを侵してはならない」(21条)と明記し、戦前の反省も踏まえ外国に対するスパイ活動には国民感情の上から相当な制限がかかっている。これに対し、米国では外国に対するスパイ活動は国家の安全保障を守る上で当然の業務と考えられてきた。他方、米国人に対する国内の情報収集には極めて敏感だ。議論になるのは合衆国憲法修正4条との兼ね合いである。条文は不合理な捜索や押収を禁じ、令状の必要性を定めている。 ウォーターゲート事件で国内の情報収集が問題視され、1978年にFISAが成立した。さらに2001年の米中枢同時テロ後に702条が新設された。国家の安全保障に関わると判断した場合、特別の裁判所の許可を得た上で、米国外に住む外国人に限って令状がなくても通信内容を収集できることになった。米国人に対する情報収集にはこれまで通り令状がいる。
702条はあくまで外国人が対象だが、外国人の通話先が米国人だった場合の対応など曖昧な点が多い。702条の期限切れを控え、人権団体の全米市民自由連合(ACLU)は「無秩序に広がった監視に歯止めをかける絶好の機会」と捉え、見直しを呼びかけている。 ▽ザワヒリ容疑者の所在地特定 702条に基づき通信傍受の対象になっている個人・団体は、米国家情報長官室の報告書によると、2022年は24万を超える。具体名は明らかにしていない。バイデン大統領の諮問機関がまとめた報告書は「大統領が毎朝受ける情勢報告(デーリーブリーフィング)の59%に702条で得た要素が含まれていた」と意義を強調している。 情報機関にとっては有効かつ便利な手段であることは疑いがなく、例えば昨年、アフガニスタンの首都カブールに潜伏していた国際テロ組織アルカイダ最高指導者のザワヒリ容疑者の所在も702条に基づく情報収集で突き止めたとされる。