「野良犬がうろつく廃虚」が徳島一のにぎわいエリアに。倉庫街を変貌させたNPOの原点 構想から10年、県の協力を得て規制緩和
徳島県庁近くの倉庫街に、カフェや古着店、ジムなどの新しいお店が次々に誕生している。今では県内で人が一番集まるエリアになったが、十数年前まではさびれた廃虚のようだった。海運業の衰退とともに活気を失った地域は、どのようにしてにぎわいを取り戻したのだろうか。(共同通信=伊藤美優) 【写真】旧米軍住宅、ワンちゃん連れの憩いの場に 埼玉のジョンソンタウン
▽母からの提案 万代中央ふ頭は1950年代に倉庫の整備が始まり、1960~70年代に物流の拠点として栄えた。ただ、港の水深が4~5メートルと浅く貨物船の大型化が進むと、利用が急減。1999年には貨物の取り扱いが全くなくなった。 野良犬がうろつき廃虚のようになっていた倉庫街をよみがえらせたのが、NPO法人「アクア・チッタ」(徳島市)の理事で事務局長の岡部斗夢さん(50)だった。 東京で働いていた岡部さんは2000年ごろ、故郷の徳島で母が経営する企業向け制服販売会社の移転先を探していた。母は万代中央ふ頭の倉庫を提案してきた。水辺の雰囲気が気に入り、広いスペースを確保できることが理由だった。 岡部さんも賛同した。東京の「寺田倉庫」が品川の再開発地域にある倉庫街でユニークな展示会を開いていた。映像やイベントのディレクターをしていた岡部さんはルイ・ヴィトンの展示会に参加したことがあり、倉庫の広い空間を生かした自由な内装に驚いた。
ふ頭の倉庫オーナーと話を進めたが、契約3日前になってオーナーから突如「やはりできない」との申し出があった。倉庫街を含む臨港地区は県有地だった。地価は安く設定されていたが、そこに建つ施設は物流関連で使用するという用途制限が設けられていた。オーナーはその規定を忘れており、契約直前に思い出したのだった。 いったん計画を見直さざるを得なかった。しかし、港の雰囲気や市中心部という立地を考えると、倉庫街を放置するのはもったいない。岡部さんはそう考え、共感できる仲間とNPO法人アクア・チッタを設立した。 ▽県への働きかけ 用途制限の問題をクリアするため、利用の活動実績をつくり、県に地道に働きかけていくことにした。①イベント開催、②周辺の清掃活動、③倉庫利用を盛り込んだ「まちづくりマスタープラン」の作成を3本柱に掲げて活動した。2005年から15回開催したアクア・チッタフェスタは、多い時には1万7千人が集まる一大イベントに成長した。 2010年にワークショップを開き、その後、倉庫3棟で規制緩和に向けた実証実験を始めた。貸しスペースを運営したり、東京芸術大学の教授と学生らを招いて作品を制作・展示したりするイベントを開いた。