「松本ピアノ」奏でる音色で街の魅力PR ふるさと納税返礼に演奏権 千葉・君津
千葉県君津市は同市出身のピアノ調律師、松本新吉(1865~1941)が生んだ国産ピアノの草分け的存在である「松本ピアノ」を活用し、地域の魅力をアピールしている。演奏会のほか、今後はふるさと納税の返礼品に加えるなど工夫を凝らす。「製鉄」のイメージが強い君津だが、ピアノが奏でる音色を通じ、新たな魅力を発信する。 松本新吉は現在の君津市常代(とこしろ)に生まれた。明治33(1900)年に渡米し、ピアノ製造の技術を学んだ。帰国後、東京・月島などで製造を始めたが、関東大震災(大正12年)で被災。その後、現在の君津市外箕輪に八重原工場を設立し、親子3代にわたり熟練の技を継承した。 松本ピアノは明治期、「山葉(ヤマハ)」「西川」と並ぶ3大ピアノメーカーの一つとして名をはせた。ピアノの響きを決める部材「響板」に北海道産のエゾマツを使用するなど国産にこだわり、「スイート・トーン」と呼ばれる柔らかな音色を生み出した。 ただ、戦後の大量生産時代を迎え、職人による手作りのピアノは先細り、平成19年に八重原工場は閉鎖。約110年続いた歴史に幕を下ろした。残された10台ほどのピアノは市に寄贈され、市民文化ホールに収蔵されている。 市は日本のピアノ製造史に名を刻む松本ピアノに着目。その音色や歴史を広く知ってもらうことで地域活性化につながると判断した。 石井宏子市長が小中学校の音楽教諭を務めていたことから、今年、寄贈されたうちの1台が市役所の応接室に備えられた。 市の担当者は「市長自身が演奏し、トッププロモーションもできる」とアピールする。10月には千葉市のホールなどで演奏会を開いた。12月からは市のふるさと納税の返礼品に、市民文化ホールの大ホールで4時間、演奏できる権利を用意する予定だ。演奏当日は他の楽器とのアンサンブルもできる。こうした取り組みを松本ピアノ・オルガン保存会が支える。 石井市長は松本ピアノを「市が誇る唯一無二の文化資産」と評価する。そのうえで「深い響きやピアノ作りの歴史と職人の情熱に強い共感を覚える」と語り、市内外に幅広くアピールする考えを示した。 ◆松本ピアノ・オルガン保存会 平成19年、君津市の八重原工場閉鎖に合わせ、有志による「松本ピアノ・オルガン保存会」が発足した。松本新吉の孫、新一さんを中心に修復・保存活動を展開し、伝統の音色を守り続ける。浜松市楽器博物館や長野県内の学校などにも残されている。(岡田浩明)