消えゆく地方のデパート、「ゼロ県」も漸増 多数の地方店を抱える近鉄百貨店の生存戦略
地方百貨店の閉店ラッシュに歯止めがかからない。平成3年の9兆円超をピークに業界の売上高は半減。インターネット通販の普及や大型量販店の進出などが影響し、かつて「小売りの王様」と呼ばれた百貨店が地方では毎年のように姿を消している。業界関係者は「既存の店舗運営では淘汰(とうた)されていく」と危機感を募らせており、人口減が続く中、来店頻度を高める〝生存戦略〟が求められている。 【表でみる】外商顧客の獲得に向けた百貨店の主な取り組み ■離れていくブランド 「仕方のない状況だったが閉店はショックだった。百貨店を利用してくれていた地元の人には感謝しかない」。今年1月に閉店した一畑百貨店(松江市)の元専務、井上智弘さん(65)は感慨深げに振り返る。 昭和33年に開業した一畑百貨店は島根県唯一の百貨店として親しまれ、地元の人の「ハレの日」を彩ってきた。40年以上にわたって勤務し、「一畑百貨店一筋」という井上さんは有名アパレルブランドの誘致に貢献するなど黄金期を支えた一人だ。各地域の物産展や地元の特産品などを集めたイベントが盛況だった一畑百貨店。「非日常を味わうイベントの開催などは百貨店でしかできない。地域にとって重要なにぎわい創出のインフラだった」と自負する。 約20年前は100億円を上回る年間売上高を誇った同店だが、ネット通販や大型量販店の台頭に押されて売り上げが低迷。新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけ、近年はピーク時の約4割にとどまり、赤字を脱却できない状況が続いた。「昔は大型量販店もなく百貨店の独壇場だった。そこに甘えていたのかもしれない」と井上さんは嘆く。 非日常を感じる百貨店を演出するためには、そこでしか手に入らない有名アパレルブランドなどの商品充実が不可欠だ。だが、売り上げの多くを占めるアパレルショップの退店が相次いだ。また肌着など日常使いの商品は量販店などで購入したほうが安価のため、顧客が近隣の商業施設に流出。若い世代を中心とした新規顧客の囲い込みに苦心し、今年1月に60年以上の歴史に幕を閉じた。 一畑百貨店閉店時に社長を務めた親会社・一畑電気鉄道の錦織要常務執行役員は「長年続いた三越との関係が解消され、地方単独店となった平成21年ごろに改革を進めるべきだった。単独店は大手に比べ、ブランドを引っ張ることも難しくなる」と説明する。