ホンダの全固体電池パイロット工場を見学! 開発の最前線で感じた量産までの距離感
新しい電池を実用化する難しさ
全固体電池の生産ラインは、その入り口である活物質(電池の正極/負極に使われる、酸化/還元を担う物質)と固体電解質をスラリー化する混練の工程から、新しい試みが組み込まれています。これまでは小分けにして合体させることで混ざり具合を均一化させていたところを、インライン式の連続混練で工数を削減。さらにスラリーを金属箔に塗工する工程は、正極と絶縁層を間欠で塗工し、そこに負極を貼り付ける工程をロールプレス化して一気に生産性を高めようという挑戦的な内容となっています。また、見学に際して白いツナギやマスク、ヘアキャップの装着を求められたことからもわかるとおり、ライン内は食品工場並みの衛生状態で管理。メモ用のボールペンも指定されたものを使うなど、塵埃(じんあい)への対策は徹底されていました。 撮影・スケッチなどが一切不可だったためにお伝えするのが難しいのですが、生産工程はスラリー塗工から乾燥、折り返してのロールプレスによる圧着までが一本化されるため、ラインの出発地点は大きな金属箔のロールがドンと居座る、印刷所のような見た目でした。スラリー塗工後の乾燥工程がざっと100m以上はあるだろう長さで、その後のロールプレス工程を経て全固体電池のひな型となるまでに、恐らく金属箔は、出発時から400mくらい引き回されることになると思われました(正確な数字は発表されておらず、あくまで個人の目測的印象です)。 しかし、その400mの間に、塗工や正負極のプレスといった緻密な工程を正確にクリアするのは、素人目にもかなり難しそうにうかがえます。実際、工程を説明してくれた担当者も、ラインが立ち上がったばかりの現状では課題が山積していることを正直に吐露。新しい電池をモノにするには、反応という化学を克服する以外にも、装置類の適切なコントロールや新しい加工へのトライなど、生産技術側にも相当な革新性が求められるのだなあと実感しました。 (文=渡辺敏史/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)
渡辺敏史