「ららぽーと」「ミッドタウン」の三井不動産が”ネット通販”にも意外と本気になっている。「リアル店舗の大家さん」がなぜ?その理由を解説
④ 現場を熟知したDX担当者 顧客中心主義で展開できた背景には、担当者が現場を熟知していたことも見過ごせない要因です。 この事業は三井不動産の商業施設・スポーツ・エンターテイメント本部が担当しており、DX本部も兼務する担当者は元々アパレルで店長を経験した人材です。テナント側の意向や希望を理解しているのはもちろんのこと、最前線で顧客に接した経験があるのは非常に大きな強みです。 ららぽーとクローゼットは、小売りのカテゴリーとしてはセレクトショップでもあるため、どのような商品を選び、どう店舗やECサイトで展示するかは店の印象を左右し、顧客の購買行動に大きな影響を与えます。
それをアパレル経験がありデジタルも理解している担当者が担っているのは大きな強みです。 商品を魅力的に見せるための陳列や演出といったVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)から、シーズンの前からトレンドや消費者の需要、過去のデータなどを予測して商品を買い付けるMD(マーチャンダイジング)といった経験が必要な分野ですので、アパレル経験のない人材が担当していたら、ここまでうまくいかなかったかもしれません。
ショールーミングは小売り企業の利益を損なうというネガティブな見方もされていますが、いずれにせよ、リアル店舗を訪れた後にオンラインでリサーチ、購入するという顧客行動はこれからも続き、加速していく可能性が高いです。 訪れた顧客を競合に奪われずに、自社ECサイトなどで決済購入してもらうための仕組みづくり、関係性構築はこれからの時代の小売業者にとって避けて通れない道です。 ■買い物も進化している 今回ご紹介したショールーミングの事例のように、顧客の求める「新しい体験」を提供することは、顧客との関係性を深め、最終的な利益につなげる大きな足がかりになりえます。
テクノロジーは進化し続けており、それに伴い消費者の行動も変化していきます。だからこそ競争の激しい小売市場においてビジネスの収益性を維持し続けるためには、常に時流を読み、課題をチャンスに変え、臨機応変に対応し続けていくことが求められています。 (構成:横田ちえ)
田中 道昭 :立教大学ビジネススクール教授