悲願Vの東海大を支えた科学力と箱根駅伝特化トレ
両角監督は佐久長聖高校時代に後に五輪ランナーとなる佐藤悠基(日清食品グループ)や大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)らを育てた実績を持つ。 大学でも、「世界を目指す」という高い目標を掲げて取り組んできた。トラックのスピードでは学生ナンバー1のチームを作り上げたが、箱根駅伝は苦戦が続いていた。 「昨季は出雲(優勝)と全日本(2位)で青学大に勝ったんですけど、箱根は5位に終わり、すべて負けたような感じになってしまった。箱根駅伝は学生が大きな目標にしている大会ですし、黄金世代と言われる学年が3年目を迎えて、十分にスピードもついてきました。今季は、『箱根を勝とう』という思いになったんです」(両角監督) 昨季まではトラックに重点を置いていたが、この夏に方針転換。箱根駅伝を意識して、8月の夏合宿では30km以上の距離走を10本以上こなしてきた。その影響で故障者が続出。9月の日本インカレは1万mにエントリーしていた小松、鬼塚翔太(3年)、塩澤稀夕(2年)が欠場した。出雲は前回Vメンバー4人が外れて3位。全日本は2位になったがエース格の鬼塚、關颯人(3年)は「50%」ほどの状態だった。 さらに今冬はトラックレースを封印。1万mで記録を狙いたい選手もいたため、チーム内に不満も噴出した。しかし、両角監督は、「箱根は勝てる!」と選手たちに声をかけてきた。 トレーニング内容も箱根仕様に一新。1600m×5本のインターバルをやった後に、1万mのペース走(キロ3分20秒)をして、さらに1600mを2本行うなど、脚に乳酸が溜まった状態でも、押していくようなメニューでレース終盤の粘り強さを養った。 7区を走った阪口は後半の約10kmで東洋大を40秒以上も追い込んでいる。 「以前は後半離されることが多かったんですけど、今回は全員が後半もしっかり走れた。やってきた練習が実を結んだと思います」と阪口は胸を張った。 また5区西田壮志(2年)と6区中島はともに区間2位。5区と6区のトータルタイムは最速で、“山”を制したことも箱根駅伝の制覇につながった。 「正直、山は適性のある選手と巡り合えるかが大きいと思います。西田の場合はスカウトの段階で上りが強いという情報を得ていたので、なんとか入学してもらいたいという思いがありました。中島は下りに関しては得意意識を持っています。1年時から6区に起用してきて、年々タイムを上げてきた。それぞれの個性を箱根のコースで生かせているのかなと思います」 現在の大学3年生は、15年全国高校駅伝1区の上位6人中5人が東海大に入学。「黄金世代」と呼ばれる学年だ。エース格の関颯人は故障の影響で外れたが、優勝メンバー10人のうち3年生が7人を占めている。 「高校では感じたことのない大きなプレッシャーを大学では感じています。その分、いろんな人に支えられてきましたが、なかでも高校の先生方がいい選手を預けてくださった。こういうかたちで恩返しすることができて、非常にうれしく思います。今回は走り込みを徹底して、記録会も回避しました。新しい取り組みを学生が理解してくれて、勝つためにやるんだという意識のなかで努力してくれたことが大きかった。ただ、能力の高い選手の目標はあくまで世界です。1回勝って気楽になった部分もありますし、今後はいろんなことに挑戦していきたい。箱根も大切ですけど、学生のうちに世界大会に出られるような選手を育成したいと思います」 1月末には日本選手権1500mを連覇して、箱根4区でも区間2位と好走した館澤亨次(3年)ら数名が高地トレーニングを行うために、米国・フラッグスタッフに出発する。トラックで記録を狙うためだ。箱根駅伝は6年連続46回目の出場で悲願の総合優勝に到達した東海大。次は箱根から世界へ。両角監督は教え子である大迫傑のように世界で戦えるランナーを育てていく。 (文責・酒井政人/スポーツライター)