地域住民もビジターチームも利用できる・・・ライオンズが整形外科クリニックを開院した事情
■選手はケガや違和感の訴え方がうまい 「今回のクリニックを作るうえで要望したのは『動線を分ける』ことですね、選手が診察を待っている一般の患者さんと顔を合わせることなく、全部回れるようにしなければいけないと考えました。それからできるだけ良い機材をそろえるということです。これまでは診断のために遠くまで行って画像を撮るようなこともあったのですが、診断までならここで全部できるようにしようと思っています。 昨年、選手を診断して感じたのは、選手はケガや故障をした部位の傷み、違和感の訴え方がうまいということですね。一般患者なら、患部の痛みが取れたら、ああ、これでいいやと帰ることが多いんです。なかにはまた痛みを訴えてくる人がいるんですが、選手は、痛みがないだけでなく次の日に思い切りプレーできないといけない。ちょっと動いてもらうと、あ、こっちは良くなったけど、こっちに張りがでてきましたとか、細かな指摘が出てきます。またケガをしたときに選手のほうから『この前と同じ箇所をやった感じです』などと言ってくれます。選手たちは日々やはり必死ですから、フィードバックのレベルも違ってきます。
一般の患者さんと選手を両方診させてもらえるというのは、経験値を高めるうえですごいメリットがあると思います。若い医師が伸びる環境ができたのではないかと思いますね。 またリハビリテーションの部分では、PT(理学療法士)さんが常駐しています。PTさんも昨年からライオンズを担当していただいたので、お互いの情報交換をしています。医師に診せるまでではないけど、調子がよくない選手の予防的な処置をした、などの知見もさらに集まってくればよいと思います」
このコラムでも紹介してきたが、埼玉西武ライオンズは埼玉県下で、少年野球のアカデミーを主宰している。また、小学校低学年の子供たちのスポーツ教室なども実施している。 こうした子供たちをはじめ野球少年にとって、深刻な問題になっている「野球肘」などの「野球障害」を診る「野球肘検診」なども実施する予定があるという。 整形外科の主たる患者は、スポーツ選手と、運動機能が低下したお年寄りだ。アスリートで蓄えた知見が、地域のお年寄りの健康維持、増進にも活用されるという部分の期待も高まる。
■長いスパンで将来を見据えた「投資」 野球チームとしての埼玉西武ライオンズは毎年のペナントレースで結果を出すべく奮闘している。今季は不振で、巻き返しを図る途上ではあるが、企業としての西武ライオンズは、はるかに長いスパンで将来を見据えて「投資」をしている。 そして地域住民へのフィードバックも通じて広範な「支持、支援」を得ようとしている。これが今のNPB球団の姿なのだ、との思いを強くした。
広尾 晃 :ライター