地域の住民が見守ってきた妊娠猫が、勝手にTNRされてしまった…「お腹の子猫を返して」 法的問題を弁護士が解説
▽3 もしも、飼い猫がTNRされてしまったら
しかし、TNRの対象となる猫が野良猫かどうかというのは、一見して明らかではない場合もあります。 万一、飼い猫を野良猫だと誤解して避妊去勢してしまった場合、TNRをした団体は飼い猫を不必要に傷つけたこととなり、飼い主に対して損害賠償責任を負うことになります。この場合、繁殖できなくなったことによる猫の市場価値の減少分や、飼主の受けた苦痛の精神的慰謝料を支払うことになるでしょう。 飼い猫が野良猫と誤解されてTNRされてしまう事態を防ぐ対策としては、首輪をつける、マイクロチップを装着しておくなど、猫が飼い主の所有物であることがわかるように明示しておくことが考えられます。
▽4 トラブル回避のために
愛護団体も捕獲器にかかった猫を無差別に避妊去勢するようなことはしておらず、周辺住民への聞き込みや現場確認などの情報収集をして、対象の野良猫を特定したうえで慎重に進めていると思います。 しかしそれでもヒューマンエラーが生じることはどうしてもありますし、活動をしている側に綿密に調査する人的・金銭的・時間的余裕が足りない場合もあります。 今回のようなケースについては、TNRを実施する前に猫の生活実態をもう少し調査していれば、世話をしている人たちの存在がわかったかもしれません。そうすれば、事情を説明し、一応の了解を得たうえでTNRを実施するといった手順を踏むことで、トラブルも回避できたのではないかと思います。 TNR活動は、野良猫の住んでいる地域の生活環境の問題です。関係者は皆さん善意で動いていますので、誰が悪い、という単純な問題ではありません。 トラブルを回避するためには、その実施にあたって、地域住民、特に野良猫に関係する人がいればその人への説明をしっかりと行い、できればその人の理解を得たうえで推進していく必要があるでしょう。 ◇ ◇ 【今回解説した記事】 ▽「お腹の子猫を返して!」ご近所6人でお世話していた野良猫が、TNRされてしまい…「みんなの猫」から「お家の猫」になったビーちゃんの物語 ◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。
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