「自死遺族が安心して悲しめる場所を」自助グループ「徳島あいの会」を立ち上げた三浦由佳さん(徳島市) 突然失った大切な人の思い出や心境を共有し支え合う【連載:阿波人あり第9回】
大切な人を突然失った自死遺族でつくる自助グループ「徳島あいの会」。昨年1月から3カ月ごとに開く交流会で、故人の思い出や今の心境などを共有し、支え合っている。四国で初めてという自助グループの存在は口コミで知られるようになり、参加者が徐々に増えている。 中学生2人が女性の自殺を食い止める 「飛び降りそうなのを見て」 徳島板野署が感謝状 このグループを立ち上げるべく奔走したのは県精神保健福祉センター係長の三浦由佳さん(43)=徳島市上八万町中山=だ。 三浦さんは2022年4月、センター主催の「自死遺族交流会 わかちあいの会」の運営担当を任された。 しかし、毎月の交流会に参加者はほとんどいなかった。22年度に参加したのは延べ3人だった。 県内では毎年100人程度が自殺している。「多くの遺族が悩み苦しんでいるはずだ。このままでいいのか」 理由と改善策を求め、自助グループを研究する上智大の岡知史教授に自死遺族支援に関する講演を依頼した。23年1月、岡教授と全国自死遺族連絡会(仙台市)の田中幸子代表理事を招いて徳島市で研修会を開き、遺族が求める支援内容を学んだ。 ◇ 研修会の後、すぐに運営方法を見直した。 すると、これまでの交流会には遺族が嫌がる要素が多くあることが分かった。 開催場所であるセンターの名前に「精神」という言葉があること。会場近くに「自死遺族交流会」との張り紙を掲示していたこと。人目が気になる遺族は、こうした単語が目につく会合には近寄りがたい気持ちがあるという。 会の進行中は県職員が細かく発言内容のメモを取る。参加する場合は事前にセンターへ連絡し、連絡先も聞かれる。こうした点もネックになっていた。 三浦さんは23年度から、交流会の名称を「雲の会」に変更。会が始まると職員は別室で待機し、遺族だけで語り合う時間をメーンとした。参加者の連絡先や名前は聞かず、事前の問い合わせも不要にした。会場はセンターから同市山城町のときわプラザに変えた。 成果はすぐに表れ、23年度の交流会の参加者数は延べ46人に増えた。 ◇ 三浦さんが次に目指したのは、センター主催ではなく、遺族だけでつくる自助グループの設立だった。 田中代表から紹介された連絡会の城野眞規子さん(68)=大阪府=と連携し、運営方針を話し合ったり、県内の関係機関や市町村の担当課にあいさつ回りをしたりした。 関係者との調整を進め、23年10月、「徳島あいの会」を設立。昨年1月に初会合を開き、遺族7人が参加した。 婚約者を自死で亡くし、現在あいの会の代表を務める城野さんは「行政職員がここまで熱心に自助グループの設立に関わるのは珍しい。遺族の心情を理解しようと努力しているのが伝わってきてうれしい」と言う。 自死遺族と向き合って2年半。三浦さんは「世間では自死を甘えや逃げ道だという偏見が根強くあり、大切な人の死を話せない遺族が多くいる。遺族が安心して悲しめる場所をこれからもつくっていきたい」と語った。 みうら・ゆか 徳島市出身。徳島大大学院(臨床心理学専攻)を修了し、2008年に県に入庁。臨床心理士として県内の児童相談所などで勤務。16年に在籍していた中央こども女性相談センターでは、県が新設した性暴力被害者支援センター「よりそいの樹(き)とくしま」の立ち上げ業務に携わった。22年から精神保健福祉センター係長。