巨大災害による「国難」を乗り越えるために ── 土木学会がシンポジウム
巨大地震や高潮、洪水といった大災害による被害額の推計を発表した土木学会が、東京都千代田区で「巨大災害による『国難』を乗り越えるために」と題したシンポジウムを開いた。実際に被害額の試算に携わった、土木学会内に設置された「レジリエンスの確保に関する技術検討委員会」のメンバーである専門家たちが、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などを「国の歴史を変えるほどの巨大な被害をもたらす国難級災害」と位置づけ、公共インフラの整備や東京一極集中緩和策の重要性について語った。
土木学会の委員会は6月7日、災害発生から20年にわたる被害額を、最悪の場合、南海トラフ巨大地震で1410兆円、首都直下地震で778兆円とする試算を発表。この試算は、建物などが受ける直接的な被害だけでなく、インフラが破損することによる長期的な経済被害を、阪神・淡路大震災から20年間で落ち込んだ経済がどのような経過をたどったかを基に推計しているのが特徴だ。この結果、直接被害中心の内閣府の試算(南海トラフ巨大地震約220兆円、首都直下地震約95兆円)を大きく上回る数字が算出された。 この数字が新聞やテレビで報道されて衝撃を与えたこともあり、シンポジウムには行政や企業の関係者など約350人が集まった。土木学会の大石久和会長が「何もしないと、次世代への大きなツケ回しをすることになる」と事前対策の重要性を強調。引き続いて、基調講演を行った河田恵昭・関西大社会安全研究センター長も「南海トラフ巨大地震や首都直下地震は国の致命傷になる。経験してからでは遅い」と対策を進める必要性を訴えた。 その後に行われたパネルディスカッションでは、参加した専門家たちが「リスクの高い地域から低い地域への人口と施設を移動することが重要」「法的担保がない限り予算がつかないこともある。世論の形成と法の整備が必要だ」「例えばスーパー堤防の話をして『造りたい、造りたい』と言うと、ただインフラを造りたいと見えるが、そうではない。安心、安寧ないい街、いい地域にするんだという観点から進めないといけない」などと意見を述べた。 委員会は被害額推計の発表と併せて、堤防、道路などの公共インフラの整備、増強を行った時の経済効果の推計も示している。これによると、道路や堤防の強化、建物耐震化を進めることで経済被害は南海トラフで509兆円、首都直下地震で247兆円の軽減ができるとしている。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)