モンゴルでも急増、中国人の大量出国が生んだ「ガチ中華」の世界的トレンド
なぜ中華料理店が多かったのか
では、なぜ中華料理店が多かったのか。その理由としては「レストランのなかでも、中華料理店なら、コックを中国から連れて来ればよいだけなので簡単に始められると見なされている。人件費も安い。そして、客も多い。人気の秘密は、一品の値段が比較的安く、肉料理の品数も豊富だから」だったという。 この点について、ウランバートルでアイリスツアーズという旅行会社の代表を務めるG.ニンジンさんは次のように話す。 「2000年代初めからウランバートルには中国人経営のレストランが増え始めました。しかし、その後、政府は衛生管理などの観点からこれらの店を厳しく取り締まり、一時は減ったのです。代わりに増えたのは韓国料理店でした。 2010年代になってモンゴル経済の高度成長にともない、ウランバートル南部のザイサン地区に高級マンションが建ち並び、中国資本のラグジュアリーホテルのシャングリラが2015年に開業すると、そこに高級中華レストラン「Golden Doragon」がオープンしました。その頃から再び中国人経営の店が増えてきたのです」 これは東京にガチ中華の店が増え始めてきた時期と同じである。 モンゴル人は歴史的に中国に対して警戒的で、政治的に好んでいないところがある。G.ニンジンさんもよく「民主主義の国モンゴルはロシアと中国にはさまれた政治的島国だ」などと話す。 それでも、最近ウランバートルに増えている中華料理店は、小資本の個人経営店だけでなく、チャイナマネーによる現代的で衛生的な大型店も増えていることは確かである。 この背景には、過熱する学歴社会と若者の就職難という今日の中国の矛盾した経済社会的な事情から生まれた「日本移民潮(日本移民ブーム)」に通じる出国ブーム、さらにはコロナ禍以降の中国経済の底知れぬ停滞や政治的閉塞感から、海外にヒトやカネを逃がそうとする「中国新移民」の存在がある。それは東京でも見られることと同様だ。 ところで、ウランバートル駅の近くには輸入食品卸市場があり、そこには中国産の米や各種中華調味料、香辛料、乾麺、豆腐食品などの食材が豊富に並んでいた。 モンゴルでは小麦はすべて国産だそうだし、国産野菜も生産されている。またすでに述べたように、彼らは必ずしもガチ中華の刺激的な味を好んではいない。むしろソ連時代に定着したコメコン仕込みのロシア風料理こそがモンゴル人の食生活に溶け込んでいる。 それでも、モンゴルで急増しているガチ中華は、とりわけウランバートルのような都市生活者の食文化に影響をもたらしていることは間違いない。
中村 正人