【Z400FX vs ZEPHYRχ】新旧カワサキ400のヒットモデルを比較試乗
時代に順応したゼファーの進化と、2台に共通するカワサキ空冷4発の匂い
割と大きめなストロークと衝撃があるZ400FXのシフトを入れ、クラッチをつなぐ。ここ最近試乗対象が大排気量車ばかりで、400ccに乗るのは久しぶり。そのため、発進はモサモサした印象に感じる。1979年当時のZ400FXの試乗記には、7000rpm以上の加速は鋭いと書かれていたが、常用するそれ以下の回転ではライダーは大らかな気分になる。ライディングポジションを含めてクルージングしたくなる特性であり、小気味よくうなり続けるエンジンもBGMにちょうどいい。 トップ6速で、60km/h≒約3200rpm、80km/h≒約4300rpmと速度を伸ばしていくZ400FX。対するゼファーχは60km/h≒約3700rpm、80km/h≒約5000rpm。車速と回転の関係は二次減速比の違いのせいと思われ、パワー特性は意外によく似たものだ。ともに7000rpm付近を境にパワーが立ち上がるほかは、現在の水冷マルチ400ほど回転上昇はシャープとは言えず、フラットな特性。常用回転域でのゆったりした特性は2バルブのゼファーを経て、4バルブのゼファーχへ至ったとしても息づき、それがマイナス要素とならなかったことが、ヒットモデルとなった理由かもしれない。 街の風や匂いをスケッチするように走るマシン……。初代ゼファーのこんなコピーほど、絶妙なフレーズもあるまい。そして前述したように、ゼファーχよりも回転フィールがシャープで、絶対性能も高い400ccマルチは少なくない。ところが、ゼファーシリーズの人気の因るところは、せかさないクルーズ性能とその気になればそこそこに攻められる部分だ。そしてよくよく考えてみれば、それはZ400FXがすでに持っていた味でもあった。 国産MCに限って言えば、今は“シラッと速くて限界性能も高い時代”に入ってきたと思う。“そこそこに速く”が現代のメカニズムで作り込まれると、マルチエンジンはシャープな方向に振られがちだ。ただし、それが乗りにくさにつながらないことが現代のマシンの真骨頂だが、心理的に飛ばしたくなるエンジン特性を持ったものは多い。ブレーキもタイヤも車体も、20年以上前からは格段に向上しているだけに、それはそれでアリだが、ゼファー人気の根強さはそこそこの性能を望む層が少なからずいるという例証にほかならない。 レプリカブームが終焉し、ブームが一巡したことでゼファーシリーズが脚光を浴びたと言われる。だが、理由はそれだけではないというのが、今回の試乗で感じたこと。Z400FXとゼファーχの歳月の間には、ブレーキや車体、タイヤを含めた足まわり性能などに確かな差がある。しかし変わらぬのは、またがったときのフィーリングだ。走り出して5分とたたぬうちに、今までずっと乗っていたかのようになじむライディングポジションで、大らかなエンジンを味わう点は、いい意味で変わっていないのである。 (写真説明・ゼファーχ) ■ゼファーの改良進化版となるゼファーχは、エンジンの大改良のみならず、ラジアルタイヤ装着、フロントブレーキや前後サスペンションの見直しや新作中空スポークホイール採用などで、走行性能を高めた仕様。 ■Z400FXベースと言えた先代ゼファーのエンジンに対し、ほぼ新設計と言える内容となったゼファーχの空冷4気筒ユニット。バルブ数変更(2→4)、カムプロフィール変更、キャブレター&排気系の見直し、燃焼室とピストン形状変更による高圧縮化(9.7→10.3)のほか、ピストンクーラーの設置、クランクシャフト全面新作でフライホイールマスを約12%低減。ほかにも、静粛性をねらったカムチェーンと周辺パーツの採用、変速ギヤやチェンジドラム部の見直しで、シフトフィーリングの向上もねらうなど、実に気合の入った改良を実施。ただしこのエンジンの搭載はゼファーχのみにとどまり、2009年4月発売のファイナルエディションで、空冷400cc4発の歴史に幕を下ろした。 ■スタンダードバイクの雰囲気を重視したゼファーχでは、1990年代後半のモデルの造形としては、意図的にクラシックな雰囲気とした速度&回転計の2連メーターを採用。回転計のレッドゾーンが9500rpmからだった400FXに対し、ゼファーχは1万2500rpm以上からがレッド。なお、先代のゼファーは1万1500rpmからがレッド。 ■1980年代後半以降の足回りの変化として大きいのが、ロードスポーツでのホイールの前後17インチ化と、タイヤのラジアル化。サスペンションの進化も含めて、こうした変更がロードモデルに運動性能の向上をもたらした。ゼファーχに装着される後輪も150/70サイズのラジアル(前輪は120/70サイズ)。 ■Z400FXや初代ゼファーと比較して、全域にわたってスロットル操作に忠実かつ軽快なエンジンレスポンスが味わえ、高回転での伸びやかさも実現されているものの、同クラスのライバル機種と比較してゆったり感のあるパワーフィールは、根本で同じ。車体と足まわりの向上にともない、20年前のZ400FXよりスポーティなライディングポジションとされる(それでも緩やかな前傾に過ぎない)が、それも乗ってすぐに馴染める点に好感が持てる。 【カワサキZ400FX(1979)主要諸元】 ■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボアストローク52×47mm 総排気量399cc 圧縮比9.5 キャブレター:TK K21P 点火方式バッテリー・コイル 始動方式セル ■性能 最高出力43ps/9500rpm 最大トルク3.5kgm/7500rpm ■変速機 6段リターン 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.380 4速1.125 5速0.961 6速0.851 一次減速比3.277 二次減速比2.500 ■寸法・重量 全長2100 全幅785 全高1125 軸距1380 シート高―(各mm) キャスター2600′ トレール98mm タイヤ(F)3.25H-19 (R)3.75H-18 空車重量189kg ■容量 燃料タンク15L オイル3L ■価格 38万5000円(1979年4月発売) 【カワサキ ゼファーχ(1997)主要諸元】 ■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク55×42mm 総排気量399cc 圧縮比10.3 キャブレター:ケーヒンCVK30 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル ■性能 最高出力53ps/11000rpm 最大トルク3.6kgm/9500rpm ■変速機 6段リターン 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.380 4速1.125 5速0.961 6速0.851 一次減速比3.277 二次減速比2.625 ■寸法・重量 全長2085 全幅745 全高1100 軸距1440 シート高775(各mm) キャスター27°00’ トレール102mm タイヤ(F)120/70ZR17 (R)150/70ZR17 乾燥重量183kg ■容量 燃料タンク15L オイル3L ■価格 58万円(1997年) ※この記事は、1998年11月号「別冊モーターサイクリスト」の特集「ヒットモデル今昔」での試乗記を再構成したものです。 文●モーサイ編集部・阪本 写真●もがきかつみ/カワサキ