“甲子園優勝校”、“クルド人”…相次ぐ「ヘイトスピーチ」を法律で規制するのはありか?
「民族」「人種」全体に対するヘイトスピーチへの「法規制」は可能か?
一方、特定の個人や団体を対象にしたものとは異なり、民族や人種全体に対するヘイトスピーチに対しては、法的責任を問うことは困難であるという。 松村弁護士:「残念ながら、現状、法的責任を問う手段はありません。 刑事の場合、ヘイトスピーチ自体を対象とする法律がなければ、刑罰を科すことができません。 また、民事の場合、原則として、具体的な権利・法的利益が侵害されたことが要求されます。 抽象的に民族や人種全体をとらえてヘイトスピーチを行った場合には、個人や団体の具体的な権利・法的利益を侵害したとはいえないのです」 他方で、松村弁護士は、個人・団体を特定しないヘイトスピーチを放置すれば社会に深刻なダメージがもたらされると指摘する。 松村弁護士:「ヘイトスピーチの最大の問題は、単純な誹謗中傷の域を超え、マイノリティの地位自体を貶めることにあります。 特定の民族や人種を全体として差別し迫害する表現を野放しにすることは、危険極まりないことです。必然的にマイノリティの人々に対する差別意識を助長することになります。歴史上、関東大震災のときの朝鮮人虐殺や、ナチスドイツによるユダヤ人の迫害等の実例があります。 しかも、マイノリティの人々は、そもそも有効な反論を行う力を持っていないことが多いのです。いわゆる『対抗言論』には限界があります」 ただし、ヘイトスピーチに対する法規制を行うとなると、複数の難しい問題があるという。 松村弁護士:「ヘイトスピーチに対して、刑罰等の法規制で臨むべきなのか、それとも刑罰は科さずに社会全体として教育的なアプローチを行うべきか、ということが古くから議論されてきました。 また、民事で名誉毀損・業務妨害・脅迫にならないものを、刑罰を用いて規制していいのかという指摘もあります。もっとも、この点については、刑事法は民事法と異なり、個人や団体の具体的な権利・利益にとどまらず社会的法益をも保護するものであり、役割が違うという反論が可能かもしれません。 いずれにせよ、刑罰をもって臨む場合は、憲法で保障されている表現の自由(憲法21条)を不当に侵害してしまわないかという問題があります」