養老孟司が「働きすぎの親たち」に伝えたい“子育て”のスタンスとは 「なるようにしかならない感覚が心を楽にする」
■自然体験の心地よさが前に進む力をもたらす 自然の中では何の目的も持たず感覚に委ねて「目で見る、耳で聞く、手で触る、鼻でかぐ、舌で味わう」という五感の刺激を入れてみてください。感覚の刺激が脳に伝わって身体に指示を出すという、インプットとアウトプットのバランスがよくなります。 僕はよく猫に例えるのですが、猫って家の中でいちばん居心地のいいところで寝ていますよね。子どもにもそんなふうに好きな場所があって、にこにこ幸せそうにしているかだけ注意を向けていればよいのです。子育ては現在進行形。「子どもにとってのちょうどよさ」を測りながら、ある程度適当な感覚で子育てをしていると、子どもも毎日の生活で居心地のよさを見つけられるのではないでしょうか。それがあれば自分からなんでもやっていける子になりますよ。 ※1950年までの第1次産業就業者は全体の約5割。2020年は全体の約3.2%(総務省統計局「国勢調査報告」から)。
■親世代の皆さんへ、養老先生からのメッセージ ●働きすぎの親御さんへ 多分毎日が居心地が悪いと思います。自分が「ちょうどよいところに収まっているか」「毎日ハッピーか」を測ってほしいですね。自分の心地のよさが分かると子どもの心地よさも分かるし、その姿を見せることがいちばんの子育てかもしれません。自分が本当は何がしたいのか、何が好きか、そういうのも考えすぎないほうがいいですよ(笑)。 ●親子で泥だらけになって遊んで 大自然の中で泥だらけになって子どもと大笑いする体験をぜひたくさんしてください。野菜を摘んで食べる、生きものをつかむ、虫を捕まえる。なんでもいいのです。子どもが植物や生きものを触る姿を見るとほっとしますよね。目の前の子どもの笑顔に癒やされると親の心も楽になって、いろいろなことがどうでもよくなります。 ●未来は子どもの財産 子ども時代が幸せということはすごく大事。一言で言い換えるなら「将来の希望」です。経験もお金も力もない子どもがもっている財産は「一切何も決まっていない未来」。かけがえのない未来に、親が考える子どもの計画を入れないほうがいいのです。子ども時代が幸せなら、たとえ不幸があっても、それを越えていく力がつきますね。 (取材・文/AERA with Kids編集部) 〇養老孟司/1937年神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学名誉教授。『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。『バカの壁』(新潮新書)は450万部のベストセラーに。日本の森林を次代に生かすための政策提言を行うNPO法人「日本に健全な森をつくり直す委員会」委員長。『ものがわかるということ』(祥伝社)、『子どもが心配』(PHP新書)ほか著書多数。
AERA with Kids編集部