声でパイロットが「見えてくる」航空管制官が殺到する交信を受け頭の中で考えていること
無線交信とレーダーを駆使しながら、超過密の空をコントロールする航空管制。管制官は空港の管制塔やレーダールーム、さらには航空路を見守る航空交通管制部などで、航空機が安全に、しかも効率よく航行できるように「交通整理」を行なう仕事です。 パイロットと管制官のコミュニケーション手段は「声」です。管制官1人に対し、複数のパイロットからの交信が殺到することは日常茶飯事。そのなかで管制官は、どのように的確な指示を出しているのか? 【画像】日本に4カ所ある航空交通管制部の管轄区域
元・航空管制官で現在、航空評論家であるタワーマン氏の著書『航空管制 知られざる最前線』から一部を抜粋し、間断ない離陸・着陸を捌くプロフェッショナルの舞台裏に迫ります。 ■交信予定のない機が呼んできたら、どうする? 管制官のコミュニケーションは、声だけが頼りです。対面での会議などでは、表情や口の動き、声が聞こえてくる方向などで、誰が誰に向けて発言しているかを感じ取ることができます。しかし、無線交信では音声でしか判断のしようがありません。
もちろん、手元にはレーダーが表示された画面がありますし、外を見れば、交信を行なっている飛行機を自分の目で見ることもできます。また、現在管轄している便情報のリストも見えます。そのなかで、今、まさにこのタイミングで自分を呼んできそうな機、次の指示をほしがっているであろう機を、頭のなかで予測して絞りこみます。 そして、レーダーなどの「目から得られる情報」と「耳から得られる情報」を整合させて、無線の相手を特定し、状況を把握しながら指示を出します。
しかし、自分の周波数帯にいるメンバーは流動的です。今は5人のパイロットと交信していても、いつ6人目が入ってくるかもしれません。 6人目が入ってきたときは、聞こえたコールサインと手元のリストを照合して、「今加わった6人目が誰なのか」を確認するわけですが、本来はほかの管制官から交信切り替えの指示とセットになって送られてくるはずの、当該便に関する情報が届いていないことがあります。 さらには、パイロットが管制官から指示された周波数とは異なる管制官を呼びこんだり、コクピット内の装置への入力ミスで呼び出し先を間違えるということもあります。