【ハリスの“庶民派”イメージ戦略】トランプ共和党と対照的な感情面アピールでの好調は続くか
2024年8月10日付のワシントン・ポスト紙で、同紙のファリード・ザカリアが、民主党大統領候補カマラ・ハリスは政策の中身は軽めにして、国民の感情や直感に訴える雰囲気に力点を置いた選挙戦を展開し、今のところ巧く行っているという観察を書いている。 近年、多くの研究が、人々の投票行動の傾向は合理的ではなく、むしろ、感情的、イデオロギー的、道義的に投票していることを示している。 民主党のハリス大統領候補は、焦点を絞った規律ある選挙戦を戦って来た。それは、政策の中身は軽めで感情に訴える選挙戦である。 2016年のヒラリー・クリントンの選挙戦の特質だった大量の政策ペーパーはない。ハリスは具体的な政策を詳述することを強いられるインタビューはいまだ行っていない。 その代わり、彼女は人間的な言葉遣いで国民に自身をダイナミックで温かくユーモアのある楽観的な人間として紹介した。それは雰囲気に力点をおいたもので、これまでのところ、巧く行っているようである。 彼女の副大統領候補の選択も同じパターンである。彼女は、庶民的で愛想が良く心の温かい男とのイメージを全国に投影する人物を選んだ。ティム・ウォルズの選択は、時にはEQがIQと同じくらい重要ということを想起させる。 これは立場の逆転である。トランプと共和党はその傾向として強さを強調し恐怖を喚起する感情の政治の達人である。しかし、今やハリスの将来に対する楽観性とウォルズが遊説で語る「喜び」の感覚が支配的のように見える。 別の意味での逆転もある。20年までの30年間、すべての大統領選挙で民主党は候補にハーバードかイエールの卒業生を選んで来た。しかし、ハリスもウォルズも、バイデンとハリスから始まったアイビーリーグ離れを継続しつつある。逆にアイビーリーグの候補を擁立しているのは共和党である。
今のところ、ハリスは沈みかけていた民主党の船を元に戻すことが出来ている。潜在的に互角に転じていた強固な青の州が青に戻った。ハリスは幾つかの全国的な世論調査でトランプをリードしており、激戦州では実際問題としてトランプに並んでいる。 しかし、このモメンタムには恐らく天井がある。米国は半々に分かれている。2000年以来、大統領選挙は接戦である。今回もペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、アリゾナ、ジョージア、ノースカロライナ、ネバダの数十万票によって決まるであろう。 勝つためには、ハリスは政策の中身を語り始める必要がある。民主党の最大の強みは妊娠中絶問題にあり、彼女はこの問題について説得的で効果的である。 最大の弱みは移民問題であり、共和党更には無所属の候補をも奮い立たせている。しかし、民主党には逃げ口がある。すなわち、今年、トランプは共和党に圧力をかけて超党派の移民法案を放棄させた経緯がある。 民主党は、超党派の国境における厳格な取締りを支持したが、トランプが支持しなかったことを指摘することが出来る。既に、ハリスは当選すればこの法案を成立させると述べている。 ハリスの戦略は巧く行くか。厳しい争いとなろう。これまでのところ、彼女は11月に報われるかも知れない普通でない道筋を選択している。 * * *