プロテスト合格に見えた辰吉Jrの将来性
リングサイドには、母、るみさんの姿があった。 「リングに上がった姿を見ると……」。途中、何度も心配のあまり悲鳴を口にして過呼吸状態になっていた。気丈に、夫、辰吉丈一郎のタイトル戦を見守ってきた人も、息子の試合となると気が気でなかったようだ。 「自分でなりたいと言って決めた道。ここから先は自分で切り開いていくしかないんです」 母は、そうメッセージを口にした。 興行が始まる頃にようやく会場に顔を見せた父は多くのメディアに囲まれた。いつものゴールドの辰吉ジャージ。髪の毛に白いものが目立ちはじめた元世界王者は、「プロテストを親が見に来てたらアホやん。(笑)。合格? 良かったと思うけれど、これからは自由がなくなる。大変やな。それにしても周囲があおりすぎ」と控えめに語った。 この日、松下IMPホールでは、李明浩、京口竜人、中澤奨という大阪帝拳の3人の日本ランカーが出場する興行があったが、かつて父も所属した大阪帝拳ジムの吉井寛・会長は辰吉のテストをあえて非公開にした。 「辰吉の名前はあるが、アマチュアもやっていない実績のないボクサー。古い考えかもしれないが、まだプロではないボクサーを話題先行で興行には使いたくなかった。ここまで取材に関してもすべてお断りをしてきた」という。伝統の大阪帝拳の流儀だ。 それでもプロテストの内容は高く評価した。 「緊張はしていたが、やはりオヤジの遺伝子なんだろう。本能で攻撃重視のボクシングをした。爆発力もあるしプロ向き。魅せるボクシングができる。性格はまじめだ。ただ、この日もガードと手数ということをテスト前に注意したが、まだ基本もできていないのにオヤジのボクシングを真似ることがある。まずガードが甘い。まだまだ、この先の課題は多いですよ」 ジムでは、ほうっておくと、すぐガードを下げた辰吉スタイルに偏るため、口を酸っぱくしてガードの重要性を説くという。父の辰吉もディフェンスが永遠の命題だった。ディフェンスそっちのけの攻撃的スタイルと、そのバックストーリーが、多くのファンの共感を得、教祖的な人気を博したのだが、技術的な課題も息子が継承しているのだから血とは本当に恐ろしい。辰吉のジュニアという話題性を差し引いても、18歳のプロテスト受験ボクサーとしては、かなりレベルは高く映ったが、元世界挑戦経験のある某人物が、その場にいたので、率直な意見を求めた。 「父とはタイプが違うね。スピードはないが、これは練習していくとついてくるもの。パンチ力はあるから、そこは楽しみ。素質は間違いなくある。このレベルで多少パンチをもらっていたディフェンスの悪さも父譲りかもしれないが、問題も後は辰吉ジュニアというプレッシャー。これは大変だと思う。それを乗り越えて練習をしっかりすれば世界チャンピオンだって十分あるでしょう」 僕も同意見。最近のジュニア世代は、子供ボクシングで英才教育を施されているため、技術はまだ、そこに追いつかないが、寿以輝には、荒削りだがプロらしい大物感がある。