消費税率を引き上げた官僚は“レジェンド”扱い…増税を「勝ち」、減税を「負け」と呼ぶ財務省【森永卓郎が解説】
自民若手議員や野党の提案に“見向きもしない”岸田政権
2014年の消費税増税のような非科学的経済政策は、今もなお繰り返されている。その典型が2023年11月2日に政府が閣議決定した経済対策だ。 経済対策の目玉は、所得税・住民税減税だ。物価高で苦しむ国民生活を救うため、岸田総理は「税収増を国民に還元する」と、住民税非課税世帯への7万円の定額給付に加えて、1人あたり住民税1万円、所得税3万円の定額減税を1年に限って実施することにした。 立憲民主党を除く野党からは消費税減税を求める声が出ていたし、自民党の若手国会議員102人で構成する「責任ある積極財政を推進する議員連盟」からも、消費税率を5%に引き下げたうえで、食料品については消費税率を0%とする政策提言がなされていた。 だが、そうした案は見向きもされなかった。 岸田総理の打ち出した所得税減税は、消費税減税とくらべると、かなりの問題がある。 第一の問題は、物価高対策にならないことだ。消費税減税であれば、税率引き下げと同時に物価が下がるから、完全な物価抑制効果がある。とくに食料品は物価が9%も上がっているから、軽減税率である8%の消費税をなくせば、物価高の大部分を相殺できる。 国民が経済対策の効果を毎日の買い物のたびに感じることができるのだ。一方、所得税減税は、所得を増やすので、理論上は、需給がひっ迫して物価をむしろ押し上げる。 第二の問題は、実施まで時間がかかることだ。来年度の税制改正を行なった後、給料の源泉徴収額が変わるのは翌年6月になってしまう。 第三の問題は、一時的な減税は、貯蓄に回ることが多く、消費を拡大しないことだ。これまで行なわれた一時金給付の効果試算では、給付金のおよそ8割が貯蓄に回ってしまうことが明らかになっている。 今回の対策では、減税の後に増税が待ち構えていることを誰もが知っているので、おそらくほとんどが貯蓄に回るだろう。つまり、景気対策の効果はほとんどない。