“日本中に憎まれたヒール”ダンプ松本が誕生した理由 白石和彌総監督が見た過酷なショービズの世界
撮影が始まってからも、空き時間に自主練習を行うなど気力は充実していた。白石監督も「プロレスシーンもある程度は吹替えなしでいけるのかも」とキャストたちの前向きな姿勢に手応えを感じていたという。「本当に撮影と共に成長していっている感じがすごかった。僕らの力ではないです」
プロレスシーンの迫力も大きな見どころになっている。白石監督は「段取りなどを準備してもその通りにいかないので、とにかく現場に入ってやってみようという撮り方になる」とドキュメンタリー的な撮影だったことを明かすと「撮影というよりは本当に試合をしているような感じでした。試合がないときは他のメンバーがサポートして……。俳優たちの頑張りによって、臨場感があるシーンができました。僕も感動しながら見ていました」と俳優たちの頑張りを称賛する。
格闘シーンで意識したことは「試合と試合の間にあるストーリーと、一つ一つの試合にちゃんと意味を持たせること」。そこを丁寧に描くことで、視聴者は必然的に試合にのめり込めるという確信のもと演出を行ったという。
物語のキーとなるのはビューティ・ペア
全5話のストーリーには登場人物の生きざまが刻まれている。なかでも、白石監督は「僕が知っている全女(全日本女子プロレス)の印象って、クラッシュ・ギャルズと極悪同盟が血で血を洗う戦いをしている印象なのですが、彼女たちは同期であり、もともとは親友だったりするんですよね」と語ると「修業時代の絆を感じられるシーンはいいなと思って撮っていました。最後まで観ると、そのシーンはやっぱり肝になっていて、自分の演出は間違っていなかったと実感できました」と自信をのぞかせる。 最初に本企画を引き受けたとき、白石監督は「極悪同盟を結成したダンプ松本が非道の限りを尽くし、日本中から嫌われたものの、それでも強く生きていく……というストーリーになるのかなと感じていた」というが「でも話をかみ砕いていくと、松本香もそうだけれど、本当にピュアな気持ちでプロレスをやっていて、何者でもなかった少女たちがプロレスという武器を持って、厳しく生きづらい世界をいかに生き抜いていったかという青春の話になったんです」とキャラクターに深く向き合うことで、より作品がドラマチックになっていったという。