「カラーズ」展(ポーラ美術館)開幕レポート。印象派からリヒター、草間彌生まで、「色彩の美術史」と美術家たちの探究を辿る
現代の作家による色彩の探求
第2会場は、白髪一雄、山口長男、田中敦子の作品で構成される「戦後日本の抽象」のセクションからスタート。続いて現代の作家による独自の色彩の探究や、その表現から見える精神性に注目する第2部「色彩の現在」へと続く。 主な出展作家は、草間彌生、ヴォルフガング・ティルマンス、丸山直文、グオリャン・タン、山口歴、流麻二果、門田光雅、坂本夏子、山田航平、川人綾、伊藤秀人、中田真裕、小泉智貴、山本太郎ら。 水を含ませた半透明の布にアクリル絵具を染み込ませたグオリャン・タンや、布に張った水の上にアクリル絵具を滴らせ、水が乾くことで色を定着させる丸山直文は、第1部で展示されていたモーリス・ルイスやヘレン・フランケンサーラーらの作品とのつながりを感じさせつつ独自の手法を確立している。ヴォルフガング・ティルマンスの「フライシュヴィマー」シリーズは、暗室で光を操りながら印画紙を露光させ、流動的なパターンを描き出した作品群で、こちらも今回初公開された新収蔵作品だ。 2017年のポーラ美術館での個展をきっかけに、美術史上の画家たちの作品と同じサイズのカンヴァスに、彼らが用いた色を塗り重ねる「色の跡/Traces of Colors」シリーズを始めた流麻二果は、「女性作家の色の跡」シリーズの新作などを展示。「制御とズレ」をテーマに、大島紬の織りや模様の引用を出発点にしているという川人綾の作品は、ドット絵のようにグリッド状に配置された色がグラデーションを作り出し、視点によって表情が変わるような錯視の感覚を見る者に与える。 陶芸家の伊藤秀人は、絵画のような平面作品としても成立する青磁の作品に挑んだ。奥深い焼き物の色が額の中に並ぶ展示空間では、壁にあるQRコードをスマートフォンで読み込むことで、作品の貫入の音を聞くことができるという演出もなされており、作品が出来上がるまでに流れる時間を観客に追想させる。 本展の展示作品のなかでも一際大きい、カラフルなドレスはファッションデザイナーの小泉智貴によるもの。着ている人のキャラクターや内面、周囲の人が抱く印象などにも影響を与える衣服の色。《Infinity》(2024)は、日暮里の生地屋で日本製のポリエステル・オーガンジーに出会った小泉が、170のカラーバリエーションのあるこの素材にインスピレーションを得て制作された。「見る」だけでなく、頭から裾まで「色彩をまとう」感覚を作り出す祝祭感のあるドレスだ。また、山本太郎による、尾形光琳の《燕子花図屏風》やアンディ・ウォーホールをオマージュした「Flowers Iris」シリーズなどの作品群もポップで現代的な色使いが観客の目を惹きつける。 最後に登場するのは、今回日本初公開となる草間彌生《無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の無限の光》(2020)。鏡によって無限に広がる空間のなかで、色とりどりの球体が明滅する、草間の「インフィニティ・ミラールーム」シリーズの作品だ。カラフルな水玉模様が生む万華鏡のような世界が展覧会を締めくくる。 「箱根は温泉豊かな土地ですので、温泉で温浴を楽しみ、当館の遊歩道では森林浴を楽しんでいただき、そしてこの『カラーズ』展で全身で色を浴びる“色彩浴”を楽しんでいただく。そのような“3浴”を楽しんでいただければ」と野口館長。芸術家たちの色彩の探究に改めて目を向けてみると、自分たちの身の回りの色彩も少し違って見えてくるかもしれない。
Minami Goto