「カラーズ」展(ポーラ美術館)開幕レポート。印象派からリヒター、草間彌生まで、「色彩の美術史」と美術家たちの探究を辿る
会期は12月14日~2025年5月18日
自然の色、生活用品の色、スマートフォンやパソコンのスクリーンの中の色……現代社会は様々な色彩に溢れている。技術の発達により、最新のモニターなどでは10億色を超える色の再現力を持つとも言われており、私たちはかつてない色彩世界を経験しているとも言える。 そんな「色彩」をテーマにした展覧会「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」が、12月14日にポーラ美術館で開幕した。
無数の色で溢れるいま、改めて「色」に向き合う
本展では、近代から現代までの美術家たちが獲得してきた「色彩」とその表現に注目し、色彩論や色を表現する素材との関係に触れながら、色彩の役割を改めて考察する。ポーラ美術館が近年新たに収蔵した10点の初公開作品を含む近現代の多様な作品が紹介される。 プレス内覧会に出席した野口弘子館長は、本展について「この、数多の色が溢れる時代に、今一度色について向き合ってみようというもの」と紹介。「カラーズというコンセプトですが、私は改めて人間に色覚があることの恐れや畏み、そして感謝を感じずにはいられない。そんな思いにかられる展覧会に出来上がっているのではないかと思います」とアピールする。 担当学芸員の内呂博之は、自身の子供がスマートフォンやタブレットで遊ぶ姿を見て、山の中で自然の色に触れていた自分の子供時代とは異なり、子供たちが「仮想の色」ばかりを見続けることになるのではないかと感じたことが本展の着想のきっかけにあったと明かす。 本展では「近代以後のアーティストたちが必死に色を選び制作してきた作品をご覧いただいた後に、戦後そして現代のアーティストの皆さんの作品をご覧いただきます。私から見れば『本物の色』を追求していると感じられる作家さんを選ばせていただいたつもりです」と話した。
印象派、ポスト印象派の画家たちの色と光の実験
展示は第1会場、第2会場の2会場を使って展開され、プロローグ、第1部、第2部の3部構成となる。 まずは第1会場。プロローグとして観客を迎えるのは、プリズムが生む色彩の美しさを切り取った杉本博司による「Opticks」シリーズの作品群。アイザック・ニュートンの著作『光学』をもとに作られた本作は、プリズムによる分光装置を透過した光のスペクトルをポラロイドカメラで撮影し、印画紙に焼き付けるというプロセスで制作された。 制作風景をとらえた映像もあわせて展示され、杉本自身が「光を絵具として使った新しい絵(ペインティング)」と評した作品が、本展の幕開けを飾る。 第1部「光と色の実験」では、印象派に始まり、戦後、現代まで10のテーマに分かれて作品を紹介している。最初のセクションでは、クロード・モネの風景画を中心に、ピエール=オーギュスト・ルノワール、ベルト・モリゾらの作品を展示。 物体固有の色ではなく、光をとらえる色彩表現を追究した印象派の画家たちは、絵具の混色を避け、光を表現するために白い絵具を多用した。その色の表現に改めて注目して見てみると、影や暗い部分も黒ではなく濃い青や紫などが用いられているなど、色彩の効果を巧みに取り入れていたことがわかる。 続く「科学と象徴――ポスト印象派の色彩」では、当時の科学的な色彩論に基づいていたという点描の技法で知られるジョルジュ・スーラ、ポール・シニャックら新印象派の画家たちの作品に加え、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンの作品を紹介。印象派、新印象派の作家たちの柔らかい色彩と対照的に、ゴーガンが描いた鮮やかな屋根の色が目を引く。