不幸な結婚生活は命をおびやかす 認知機能や免疫力も低下
悪い影響は脳機能や免疫系にも
不幸な結婚はさらに、脳機能を変化させ、記憶力や学習能力、意思決定力、注意力に影響することがある。結婚生活の質が認知機能の推移に及ぼす影響は、女性よりも男性のほうが大きかった。2021年に発表された米ミシガン州立大学の研究によると、結婚生活の質が低下している男性は、認知機能の低下がより速かったという。 ■3. 免疫力の低下 不幸な結婚によって生じる長期的なストレスは、免疫系の働きを弱める。炎症が起きやすくなり、身体の治癒力が低下するため、感染症や慢性疾患にかかりやすくなったり、ケガの回復が遅くなったりするのだ。 2023年に精神神経内分泌学の学術誌Psychoneuroendocrinologyに発表された研究論文では、言い争いをしても解決せずに放置する、話し合いを避けるといった夫婦間の好ましくないコミュニケーションパターンと、そのパターンが心身の健康に及ぼす影響を検証した。 その結果、好ましくないコミュニケーションが多い夫婦は、傷の治りが遅く、頻繁に炎症を起こしていることが明らかになった。これは身体にストレスがかかっていることを示す明らかな兆候だ。また、女性は男性よりもこうした影響を受けやすかった。 この研究によれば、夫婦が十分にコミュニケーションを取っていないと、感情的ウェルビーイングが損なわれるだけではなく、身体的健康にも直接影響が出て、病気にかかりやすくなったり回復が遅れたりするという。 この論文の筆頭著者は前述したパデュー大学のシュラウトで、科学系ニュースサイト「サイエンス・デイリー」の記事によれば、「慢性的で日常的な否定要素と急性的な否定要素を経験し、さらにその両方が重なると、夫婦の感情、関係、免疫機能にとりわけ悪影響を及ぼすことがわかった」と説明している。 2019年発表の別の研究結果によると、結婚生活で抱え込むストレスと不幸は、胃腸の健康にも悪影響を及ぼし得る。結婚生活をめぐるストレスを抱えていると、腸内細菌のバランスが崩れ、リーキーガット症候群(腸粘膜で炎症が起き、その炎症性物質が血液に流れ出して全身に広がってしまう状態)などの原因となる。これにより、他の臓器で炎症が起きたり、肥満や心臓病などの慢性疾患リスクが上昇したりする。 夫婦間のストレスや対立は、食生活の乱れや睡眠不足、運動不足といった不健康な生活習慣にもつながる。その結果、体重の増加や血圧上昇、場合によっては体内での炎症の増加を引き起こし、老化が早まったり病気の罹患率が高まったりすることになる。 ストレスの多い結婚生活を送っていると、身体が常にストレス状態に置かれてバランスが損なわれるため、双方の健康がむしばまれることになりかねない。不幸な結婚は、喫煙や飲酒と同じくらい健康に悪影響を及ぼすのだ。逆に、結婚生活の満足度を高めるよう努力をすれば、健康的に長生きできるかもしれない。
Mark Travers