性被害や命の危険も…トイレ問題解決のため日本企業がビル・ゲイツと“タッグ”
■名付け親はビル・ゲイツ氏
この「リインベンテッドトイレ」という呼称、命名したのはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏だ。 ゲイツ氏は世界のトイレ問題を解決するため、2011年に「リインベンテッドトイレチャレンジ」というプロジェクトを打ち出し、自身の財団「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」から世界中の研究者や衛生機器メーカーなどに資金を提供している。2018年に中国・北京で行われたトイレの未来に関する博覧会では、聴衆の前で排泄物を浄化してできた水を飲み干してみせ、プロジェクトへの熱意をアピールした。
■カギは「ビジネス」
LIXILは、このプロジェクトの一環として、アメリカのジョージア工科大学とともに、前述の「リインベンテッドトイレ」の開発に取り組んできた。すでに技術的な部分は確立していて、南アフリカとインドの一般家庭での実証実験を終え、量産化に向けたプロセスを進めている。 量産化に向けた最大のネックはコスト。現状では1台組み立てるのに数百万円かかる。発展途上国でビジネスベースにのせ、普及させるには10分の1程度までコストを圧縮する必要がある。 量産化でビジネスベースにのせる、これがプロジェクトのキモなのだと、担当者は言う。 LIXILは「リインベンテッドトイレ」よりも前、2012年に簡易で安価なプラスチック製のトイレ「SATO(=Safe Toilet)」を開発。排泄物をためる穴の上に取り付けるだけの手軽さで、穴に通じる部分には「ししおどし」のように排泄物の重さで開閉するフタが付いている。感染症の原因となる虫の侵入や臭いを防げる仕組みだ。これまでにアフリカや南アジア、中南米などの45か国以上に約750万台を提供している。
1台わずか数ドルのSATOだが、LIXILは寄付やボランティアではなく、「ビジネス」として事業を続けている。トイレの環境改善を持続可能なものにするには、ビジネスベースでの支援が必要だとの信念からだ。 寄付では資金に限りがあり、ボランティアもその後の管理までは行き届かない。壊れたり詰まったりしたら放置され、結局もとの屋外排泄に逆戻りしてしまうこともあるのだという。 ビジネスとして成立させるためには、まず、現地の人たちに衛生的なトイレの必要性を理解してもらうことから始まる。地域によっては家の中や周りにトイレを作ることに抵抗感を持つ人たちもいるので、一筋縄ではいかない。根気強い説得が必要だ。 次に生産・販売体制。現地のメーカーに製造技術を教え、職人を育てる。販売店を探し、施工や管理方法を伝える。こうして現地に市場と雇用を生み出し、自分たちのお金でSATOを買ってもらう。 「リインベンテッドトイレ」のプロジェクトでも、同じようなビジネスの仕組みを生み出すことに意義がある、と考えている。 トイレが安全で衛生的になるだけで、子供の病気が減り、女の子が学校に通え、大人には雇用が生まれる――。人は一生で20万回、トイレに行くという。トイレ問題は人類共通の大きな課題だ。