資本主義を補完する新たな“哲学”への賛否(レビュー)
資本主義は効率性と個人の利益追求に重きを置きすぎている。そのため未来世代に十分な資源や環境条件を残すサステナビリティ(持続可能性)に問題が発生している。この課題に挑むために、松島斉『サステナビリティの経済哲学』は、まず経済に対する基本的なビジョン(哲学)を刷新すべきだ、とする。 従来の経済学が持っている哲学は、資本主義をあまりに弁護するものだった。人類の持続可能性を考える点では、むしろ「新しい資本主義」と「新しい社会主義」に立脚した哲学が必要である。分析道具の開発よりも、もっと私たちや経済学者は根源的な問題を考えるべきだ、ということだろう。著者の野心は壮大だ。 「新しい資本主義」は、企業に利益追求に勝る社会貢献を「大義」として与える枠組みだ。もし持続可能性の大義に反すれば、不買運動などで社会が企業に制裁を加える。だが、これだけではまだ人類社会の持続可能性を損なう「ならず者国家」の横暴を抑えることはできない。なぜなら国家にペナルティを科す超国家はないし、国家権力の前で市民の力は不足しがちだ。そこで「新しい社会主義」の出番だ。宗教さえも超越する社会倫理を、時間をかけて世界市民が学ぶことで、この「ならず者国家」が悪さをしない世にするということだ。ただ本書の議論は粗さも目立つ。また世界規模の洗脳ともいえる「新しい社会主義」には違和感がある。それでも議論すべき論点提示に優れた本だ。 [レビュアー]田中秀臣(上武大学教授) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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