楢崎智亜「強さの本質、自分がどこで勝負できるのか、自分の強みはどこにあるのか、そこはブレずにいたい」──パリ五輪に挑むアスリートたち_Vol.2
金メダルの最有力候補に挙げられながらも、4位に終わった東京五輪から3年。「プレッシャーに負けた」と敗因を振り返るスポーツクライミングの楢﨑智亜は、パリの地で再びオリンピックに挑む。 【写真を見る】楢崎智亜がドルチェ&ガッバーナを着こなす!
楢﨑智亜、32歳で迎えるロス五輪出場も視野
3年ぶりに会う楢﨑智亜はどこかソフトな印象だ。精悍な顔つきは当時と変わりない。バスト99cm、ウエスト71cmというスペックからもわかるように、その体躯は今でも見事なまでに逆三角形である。ビッグサイズのニット越しにも確認できる肩まわりと広背筋は、見覚えのある楢﨑のシルエットそのものだ。だがインタビューが始まると、様子が変わった。エネルギーと自信の塊のようだった青年は、修行僧のように東京五輪の“敗因”を語り始めた。 「もともとプレッシャーには強い方なのですが、別物でしたね。人の気持ちだったり思いを受け止めた上で勝ち切りたかったのですが、オリンピックのプレッシャーは想像以上で。あの頃の自分には抱え切れなかったんです」 3年前のインタビュー時には「練習の成果を五輪で見せたくて、うずうずしている」「金メダルが目標」と言い切っていたスポーツクライミング複合の第一人者は、銅メダルと1ポイント差の4位で東京五輪を終えた。 「支えてくれる人たちの思いを背負う、ということに対しての強さがまだなかった、と思っています。自分は一人で厳しい道を行けばいいという考え方だったのですが、皆の思いを背負う、そういうものに弱かった。自信をもってのぞんだだけに、4位という結果は今までで一番悔しかったことでした。この悔しさは五輪でしか晴らせません」
雪辱を期すパリ五輪だが、楢﨑には逆風が吹いている。スポーツクライミングは、ボルダー&リードの複合種目と、スピードの単独種目に分かれて実施されることになったのだ。「リードの方が得点を稼げます」と本人は解説するが、ボルダーを得意とする楢﨑には不利な競技方式ということになる。 「自分には不利と思われた新フォーマットの世界選手権で代表権を獲得できた。これは自信になりました。そこからさらにトレーニングを積んでいるので、得意なボルダリングでしっかりと1位の記録をとって、次のリードでどれだけ頑張れるか、というのが僕の勝負。今はそこを日々頑張っています」 逆風を乗り越えるきっかけとなったのが、クライミングに対する考え方、スタンスの変化だ。 「ボルダリングには課題を作る人がいるんですが、制作側の意図を考え過ぎていました。作る人がこう考えているからこれが正解だ、といった感じで。自分がどう解くか、自分の感覚を今は優先しています」