楢崎智亜「強さの本質、自分がどこで勝負できるのか、自分の強みはどこにあるのか、そこはブレずにいたい」──パリ五輪に挑むアスリートたち_Vol.2
変化はもう一つ。自分と素直に向き合うようになった。東京五輪の敗因として、技術的にも肉体的にも自分を強くすることだけに集中し過ぎていた、メンタルを甘く見ていたと付け加えた。 「自分で自分と話すというのは、なかなかキツい部分があります。見たくないものを見なきゃいけませんから苦手でしたね、正直。大会本番では、心技体の“心”が一番大事だと思います。トップ選手とそのちょっと下の選手の差はどこにあるのか、と聞かれたら、それはメンタルだと思うんです。フィジカルや技術はそこまで大きな差はない。緊張する場面でいかに普段通りの力を出せるか、追いこまれた状況でいかに正確な判断ができるかっていう方が大事なんです、やっぱり」 楢﨑はパリ五輪の先、32歳で迎えるロス五輪出場も視野に入れる。変えてはいけないもの、変えなければいけないものは何か? 最後に尋ねた。 「深い質問ですね。強さの本質、自分がどこで勝負できるのか、自分の強みはどこにあるのか、そこはブレずにいたい。変えていいのは技術的な部分。新しい競技だけに、変化に対応していかないとどんどん取り残されてしまいます。2023年の世界選手権で優勝した選手は34歳で、しかも初優勝でした。すごく励みになりましたね」
楢﨑智亜 スポーツクライマー 1996年、栃木県生まれ。小学生でクライミングと出会う。2016年の世界選手権においてボルダリング種目で優勝して、世界から脚光を浴びる。2021年の東京五輪では金メダルの最有力候補に挙げられながらも、4位に終わった。2023年8月の世界選手権で複合3位に入り、パリ五輪の出場権を獲得。 PHOTOGRAPHS BY YUKI KUMAGAYA STYLED BY NATSUKO KANEKO HAIR STYLED BY KENSHIN MAKE-UP BY KOUHEI DOMOTO 文と編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA @ GQ