ウクライナの被害建物からアスベストを検出 日本企業が分析
ロシアの攻撃で破壊されたウクライナの住居などの建材に、発がん物質のアスベスト(石綿)が高確率で含まれている危険性があることが判明した。理科学機器メーカー「日本電子」(東京都昭島市)が現地の建材など10点を特別な許可を得て輸入、分析したところ、全てから検出された。専門家は「建物の修復などウクライナの復興には石綿対策が不可欠だ」と訴えている。 ウクライナはかつて、世界有数の石綿輸入国だった。近隣のロシアやカザフスタンで産出されるうえ、寒冷地のため、断熱材などとして使われたケースが多いとみられる。2022年9月には石綿の使用を禁じる石綿禁止法令が成立。同年2月のロシアによる侵略を受け、石綿を禁じる欧州連合(EU)への加盟をにらんだ条件整備の一環だったとされる。 破壊された建物の石綿の調査に乗り出したのは、国連機関の依頼を受けて建物の修復を進めてきた米国の災害復旧コンサルタント会社「ミヤモト・インターナショナル」(MI)。首都キーウ(キエフ)や東部ハリコフなどの4地点にある集合住宅や学校の屋根材、地下建材、パイプなど10点を収集した。 これらの分析を日本電子が無償で担当。日本では石綿含有製品の輸入が禁止されているため、国際的な「試験研究」を目的に労働基準監督署に「石綿分析用試料等輸入使用届」を提出して許可され、23年11月に試料が届いた。 外部の分析機関とも協力し、今年2月まで2種類の電子顕微鏡を使うなどして精査した結果、現地で広く使われていたとされるクリソタイル(白石綿)が10点全てから検出された。試料に含まれていた石綿の割合は重量比で5%前後が多く、ハリコフの集合住宅の屋根材は7・8%の濃度だった。日本では石綿が0・1%以上の物を製造・使用禁止の対象にしている。 石綿被害に詳しい高橋謙・産業医科大名誉教授は「今回の分析結果は、現地で働く人や住民に石綿に対する注意喚起、対策措置をとってもらう根拠となる。復興作業を進める際には石綿対策の費用が必要だと国際機関などに認識してもらう必要もある」と話している。 MIは集合住宅など7000世帯以上の修復を実施したが、石綿の含有を予想して、がれき処理の際の注意点をまとめたガイダンス(ウクライナ語)を作成して臨んでいた。宮本英樹社長は「被災建物の再建計画を立案する上で大変有益な情報になった。ガイダンスが普及するきっかけになれば」と話している。【大島秀利】